【ゲームプロデューサーを目指す学生がクリエイターにインタビュー 】面白いゲームを創るのが我々の仕事、だから全員の肩書がゲームクリエイターなんです 木村雅人#5

アンバウンドのポリシー
転職についての話の中で、会社のポリシーという話題があった。それに関連して、木村さんが立ち上げに関わっているアンバウンドという会社が掲げているものについて、いくつか質問をしてみた。
福山「面白いと思ったことについてはセクションを超えて意見を出し合うというところをアピールされていますが、ゲーム開発では分業化が進んでいて、その流れとは少し外れたところにあると感じました。」
木村様(以下、木村と表記)「ウチの会社の名刺って、肩書きが全員ゲームクリエイターになってるんですよ。」
木村「そこには、ゲーム開発スタジオとしての明確なポリシーと言いますか大事にしていることがあります。まず、大前提として、みんなそれぞれのスペシャリストではあるんです。モデラーとか背景とかサウンドとかのスペシャリストであることのもう一歩手前として、僕らは何よりもお客さんを楽しませるゲームっていう楽しい、面白いものを作るのが仕事でしょっていうのが絶対にあります。それを何より大事にするんだよっていう会社ではあるし、何よりそれを大切にして欲しい。」
木村「ゲームを作るときに、どうしても福山さんがおっしゃった通り、細分化が進んでいっている。しかもスペシャリストが多いので、自分の作るところだけに集中してしまいがちなんです。森を見ずに木を見ちゃう、もっと言うと、もうなんだか木の葉っぱ1枚1枚をずっと綺麗に磨いているみたいな感じで注視してしまいがちなんですけど、どこかのタイミングで森として、ゲーム全体を見て欲しい。」
木村「1ヶ月に1回なのか、1年に1回なのか、1日1回なのかはわからないですし、人それぞれなんですけど、自分の作っているこの作品、ゲームをちゃんと森として見て、『うわ~!俺こんなおもしろいもの作れてる。でもこれ、もっとこうしたらおもしろくなるぞ!』って考えて欲しいなと思います。」
福山「分業化の仕組みとしては、昔のゲームと比べてできることもやらないといけないことも増えてきた結果だと思っています。その中で、他のセクションに意見を出す、自分がやりたいと思ってることに対して手を出すとなれば、普段の業務のキャパシティがパンパンになってると難しいと思います。お話を聞いていて、どれぐらいリソースに余裕があるんだろうかという疑問が浮かびました。」
木村「それで言うと、ゲーム会社って今はすごくホワイトなんですよ。なので考える余裕、時間的な余裕っていうのは結構あるとは思うんですね。でも基本的に、プランナーはずっとプランニングのことを考えているし、ストーリーを考える人間とかも解りやすく、ずっと考えていそうですよね。でも実はアニメーターもキャラクターモデラーとかもゲーム開発に関わっている人たちはみんなそうなんです。少なからず、ずーっと考えちゃっているんです。」
木村「僕は元々エフェクトデザイナーだったんですけど、例えば、お風呂に入ってるときに、『この湯気の動きカッコイイ!』とかってなってしまうんです。考えようとしていなくても何だかずっと考えてしまっているんですよ。自分のプロフェッショナルなところに関してはずっと考えてます。というかもう自動的に考えてしまっているんです。」
木村「ずっとゲーム開発をやってきた人って、多分ゲームが大好きで、どこかでいつも作っているゲームのことを考えていると思うんですよね。それはそれですごくいいことです。でも、ゲームが好きでずっと考えてきたんだけれども、どうしても特定の領域のスペシャリストになってしまうし、その部分に集中して考えてしまうことが多くなってしまう。」
木村「なぜ、わざわざ一歩引いて考えなさいとか、森を見なさいとか、解りきっているのに、あえてもう一度『ゲームクリエイターだよね、俺ら。』っていうことを言っているのかというと、言っておくことで、どこかで、ふと、そんなことを考えたり、思ったりしてくれると良いなって思っているからなんです。」
木村「映画を見ていたり、ご飯食べていたり、音楽を聞いていたり、それはいつでもよくて、ふとゲーム全体のことを俯瞰して考える一瞬があれば良いなと。それをどこかで強制して1日1時間何々をしなさいとかっていうわけではなくて、その目線を忘れるなよっていうことですね。」
福山「自分の専門領域にリソースの90%、10%は他に使いましょうではなくて、普段100%でやっているけど、ふとした瞬間に専門以外のことを考えられるといいよねということなんですね。」
木村「ロボットではないので人間ってどうしても揺れ動いていて、その揺れ動いてるときに、ふとしたときにでも考えてくれるといいなっていうところかもしれないです。目標って多分そういうものだと思うんですけど、俺らはこうだよねって言うことで、それを思い出してくれるといい。」
福山「そうして明言することで、思いついたものを意見しやすくなるっていうのもありそうだなと思いました。」
木村「結局ゲームってそういうふうに出来上がっている気がしてます。今まで組んできたディレクターたちも、みんなめっちゃ考えてます。多分ディレクターって一番考えていて、作っているものの答えに近いものが頭の中にある程度はあるんですけど、完全に全部考えられてるかっていうと、そうじゃないんですよ。」
木村「やっぱり100%全部は無理で、そうだからこそ、すごくたくさんのチャンスがゲーム作りの中にはあって、ディレクターとかプランナーとかが考えても考えても思いつかなかったり、足らなかった隙間みたいなところにいっぱい付け入る隙があるわけですよ。」
木村「そう考えるとゲーム開発ってめっちゃチャンスがある仕事だと思うんです。色々な人が考えたものが入る余地がいっぱいあって、そこに誰かの思いついたアイディアがズバッ!とハマることがある。」
木村「これがゲーム作りの醍醐味というかめちゃくちゃ面白い瞬間な気がしていて、それをずっとやっていきたい。そうやっていろんな人がぶっこんで、ぶっこんで、ぶっこんでっていうふうに、濃いものにしていかないと面白いゲームにならない気がしています。」
木村「『最初に設計図できました、その設計図通りに作りました。』だと何か足らなくて、『なんとも色々、山ほど詰め込んだね~!』みたいな感じになっていった方が良いゲームになる。これは本当に経験則ですけど、みんなが『俺はこのゲームに何かをぶち込んでやるぜ』って思っているような開発の方が面白いし、良いモノを作れているような気がしています。」
グローバルとの違い
福山「木村さんはこれまでも、今のアンバウンドでもグローバル展開を見据えていると思いますが、国内を主なターゲットにする場合と、全世界に向けてとなった場合で変わることはあるんでしょうか。」
木村「ないです。」
木村「日本国内に向けてるからこうしようとか、ワールドワイドに向けているからこうしようとかっていうのは、ゲームを作る時点では、ほぼないですね。」
福山「最初のスタート時点から最後までないんでしょうか。」
木村「あるとしたら、ローカライズをするときとかに、その作品がすごく日本の伝統を感じさせるお話であったりするような場合とかには、ちょっと嚙み砕いて海外の皆さんにも解りやすくしたり、日本の童話感、伝説感みたいなのが伝わるようにしようとか、そのために古典的な英語で翻訳しよう、みたいなカルチャライズ的な部分は気にしています。」
木村「これはワールドワイドに売らないといけないから、こんな世界観にしよう、こんなキャラクターにしようとかはあんまり考えてない。
木村「企画の始まりってディレクターが生み出した種みたいなものがあって、それはディレクターのやりたいものとか面白いと思ったものがいいなと思っています。なぜかというとディレクターってめっちゃ大変なので、その一番最初の種みたいなのは自分が好き、素晴らしいと思っているものじゃないと、折れてしまいがち、しんどくなってしまいがちで、何年もの間モチベーションを保つのも難しくなってしまうと思います。」
木村「最初の種は世界中の何かや海外の何かに発想を得ている場合も多々あるんです。でも、だからワールドワイドになるよね、とは全然思ってなくて、『このゲームの面白いところはここや!』しか考えてない。なので日本向けとか海外向けっていう考え方をしたことがあまりないですね。」
福山「ターゲットの属性みたいなところに縛られないで考えているのは、完全独立の開発会社であることの影響もあるんでしょうか。」
木村「いや、大手メーカーの大きなタイトルに関わっているときからそんなに意識してないかもですね。ゲーム性の部分とか、ストーリーの部分とかでもあまりそういうのを考えてやったことがないですね。」
福山「海外の方でも日本の会社が作っているゲームの味や個性みたいなものが好きっていう方もたくさんいらっしゃいますけど、ゲーム性だったり、楽しむという面に関しては海外と日本で差がないと。」
木村「全然同じだと思いますね。原始的な、直感的な、爽快感、気持ちよさ、怖さとか迫力とか、抑圧とか、開放とかみたいなところに直で訴えかけて、ユーザーがリアクションを返すことができる唯一のメディアがゲームですからね。」
木村「一方通行じゃなくて、双方向である時点で完全に操作するのはやっぱり難しくて、完全に一方的に与えるだけにできないのがゲーム。それは良いところも悪いところもあるけど、その直感的な感情を動かすことができるっていうところは素晴らしいところだと思う。直感的なものを動かしてるから、そこに日本と海外の違いをあんまり感じたことは無いし、あまりそこを意識して作っていないです。ココではこんなふうに気持ちよくなって欲しいとか、ココではこんなふうに怖がって欲しいとかっていう、ユーザーに感じて欲しいことを大事にして作っていますね。」
木村「もし地域性の色みたいなものが昔あったとすると、海外のゲームは『シミュレータ』に近いものが多くて、日本のゲームは『ごっこ』に近いものが多いような気がしていて、良いところをお互いに融合して、今になっている気がしています。」
木村「ごっこにしてもシミュレーターにしても楽しみたいところって実は一緒で、成功した気持ちよさとか、失敗した悔しさとかを楽しむ。ただ、日本のゲームのごっこの中で、海外になかった面白さは、カットシーンとかのいろんな理由によって『ごっこを助長する』というか、気分をのせるための要因が多くあったことが日本のゲームの良いところだったような気がしています。」
木村「だから、そこを海外のゲームは取り込んで、逆に日本は海外のゲームのシミュレータ的なリアルな部分っていうのを取り込んでいったし、お互いに大事なところ、ユーザーに何かを感じてもらって、楽しんでもらうっていうのは一緒なんじゃないかなって思っています。」
オリジナルを作るということ
福山「アンバウンドのポリシーについて、今度はオリジナルを作るというところのお話を聞いてみたいなと思っています。」
福山「オリジナル作品は売れ方の予測が難しく、どちらかといえば、ギャンブルチックになるのかなと思います。安定的に制作できることをアピールする会社さんもいる中で、『オリジナルにすごい力入れてやります』は、その反対にあるようにも感じます。」
木村「もちろん、弊社もオリジナル以外も続編も作っていくんですが、いつも社内で一つはオリジナルのプロジェクトを作り続けたいと考えています。弊社は今はまだ50名ぐらいしかいないんですけど、最終的に130~150名ぐらいの組織になっていきたいなと思っていて、開発の中で大きなタイトル、中規模、小規模のタイトルを常時3本ぐらい作り続けていきたいと考えているんです。」
木村「そこには予算、スケジュール、人員の工夫ができるようにとかいろんな考えがあります。あとは会社として、色々な意味で安定してゲームを作っていくためでもあります。」
木村「そして、もう一つ、UNBOUNDとして、とても大切なことがあります。それは小規模、中規模になってしまうかもしれないけど、オリジナルの作品を作り続けていくなかで新人もベテランも関係無く、大きなチャンスを得て成長して欲しい。ディレクターやデザイナーやプログラマーや、全てのセクションで次のエースが育っていってくれることを何よりも大切に考えています。」
今回のお話をうけて
実質的に企業説明会や面接での逆質問みたいになってしまいましたが、こうしたポリシーをどれだけ良いと思うか、そこに違和感を持たないかが会社選びにおいて重要なのだろうなと再認識しますし、人を集める側からしてもそういう人を求める人物像に挙げる理由だと感じます。
また、木村さんのご経歴を調べた際に、グローバル志向のようなものを感じたので、日本と海外の違いについて質問させていただきましたが、ウケるものや楽しいと思うことにそこまで違いがないと考えて作っていることが少し面白いなと思いました。
楽しめる、と楽しいと感じるの二つには微妙な違いがあるんじゃないかなと何となく感じていて、その差はこれまで楽しいと感じてきたものという経験的な違いから来るものじゃないかなと考えていたので、文化的背景が異なる日本と海外では多少なりとも違いのではと思っていたところに、経験値を沢山持っている方から「ないです」と返ってきたことが意外で、さらに色々と考えるきっかけとなって面白かったなと思います。
↓NEXT
↓PREV