【業界分析】誰も得しなかった「トークン上場チキンゲーム」の終焉と、泥沼化する日本暗号資産市場の末路

【業界分析】誰も得しなかった「トークン上場チキンゲーム」の終焉と、泥沼化する日本暗号資産市場の末路

【業界分析】誰も得しなかった「トークン上場チキンゲーム」の終焉と、泥沼化する日本暗号資産市場の末路

SBI VCトレードの大量上場廃止を機に、日本の暗号資産市場が直面する構造的危機を徹底分析。世界的大手との流動性格差や高額なインフラ維持コスト、厳しい税制など、国内取引所が「勝てないチキンゲーム」で泥沼化した背景にある3つの大罪を暴きます。なぜ日本のWeb3市場は衰退したのか、2026年現在の冷徹な現実と焦土化した市場の末路、そして生き残りに向けた今後の展望が分かります。

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  1. 1第一章:インフラ維持コストという「見えない出血」
  2. 2第二章:世界的大手に勝てるわけがないという「絶対的格差」
  3. 3第三章:売買が増えない「ガラパゴス市場」の構造疲弊
  4. 4第四章:誰も得しなかったチキンゲームの責任はどこにあるか
  5. 5終章:2026年、ガラパゴス市場の「焦土化」とその先にあるもの

2026年6月、SBI VCトレードが発表した「DAI、OMG、XTZ、SAND、AXS、BAT、APE」の大量一斉取扱い廃止のアナウンスは、日本のWeb3・暗号資産業界の歴史において、一つの時代の終わりと「総括」を告げる鐘の音となった。

かつて、日本の暗号資産交換業者(CEX)は、自主規制団体(JVCEA)による「ホワイトリスト」の審査緩和を勝ち取り、競うように新規銘柄(アルトコイン)を上場させてきた。その裏で、多くの国内取引所がマルチチェーンおよび多銘柄対応のカストディ・ノード管理システムとして頼ったのが、株式会社Ginco(ギンコ)をはじめとする国内の優れたエンタープライズ向けインフラだった。

しかし、その結末がこれだ。

システムを提供するインフラ企業に落ち度はない。

むしろ彼らは、日本の厳しい規制要件(分別管理やセキュリティ)を満たす高水準のシステムを安定して提供し続けた。問題は、そのシステムの上で「勝てない戦争」を戦い続けた国内CEX側の戦略の不在、そして日本の暗号資産市場そのものが抱える「致命的な歪み」にある。

多くのチェーンと多くのトークンを維持することに血眼になり、多額の保守運用コストを支払い続けた結果、国内取引所の多くは赤字を垂れ流し、挙句の果てに出来高(流動性)の過疎化によってサービス維持が不可能になった。

結果としてユーザーを裏切る形で上場廃止を連発するこの現状は、まさに「誰も得しない、ドツボの市場」そのものである。

なぜ我々は、5年も前から分かっていたこの「死への行進」を止めることができなかったのだろうか。

この泥沼の背景にある3つの大罪と、2026年現在の冷徹な現実を論じたい。

第一章:インフラ維持コストという「見えない出血」

日本の暗号資産交換業は、世界で最も規制が厳しい。金融庁の監督下、ユーザーの資産は100%コールドウォレット、あるいはそれに準ずる安全な環境で分別管理されなければならない。この環境を自社でゼロから構築し、全ブロックチェーンのハードフォークやスマートコントラクトのアップデートを追いかけるのは、並大抵のコストではない。

そこで国内CEXがこぞって導入したのが、Gincoなどの業務用ウォレット・カストディソリューションだった。

これは合理的で正しい経営判断に見えた。自社でエンジニアを抱えるリスクを抑え、高機能なマルチチェーン環境を「パッケージ」として購入できるからだ。

しかし、ここに大きな落とし穴があった。 システムを導入すれば、上場銘柄が増えるごとに「ノードの維持コスト」「セキュリティ監査コスト」「法的なコンプライアンス確認コスト」が雪だるま式に膨れ上がっていく。

暗号資産のブロックチェーンは、1つのOSではない。ビットコイン系、イーサリアム(EVM)系、ソラナ、アバランチ、さらには独自のレイヤー1やレイヤー2など、それぞれが全く異なる仕様で動き、頻繁にアップデートを繰り返す。

国内CEXが「他社に負けじ」と銘柄数を競い合うチキンゲームに突入した結果、取引所の裏側は「稼働しているが誰も取引していないトークン」のためのインフラ維持費という、巨大な固定費のモンスターに支配されることになった。

今回SBI VCトレードが切り捨てた銘柄を見てほしい。

  • DAI(イーサリアム上の分散型ステーブルコイン)
  • XTZ(テゾス:独自のレイヤー1)
  • SAND / AXS(GameFiバブルの遺物となったメタバーストークン)
  • BAT(Braveブラウザの報酬トークン)
  • APE(NFTバブルを象徴するコミュニティトークン)
  • OMG(もはや国際的にも流動性が枯渇したレイヤー2の先駆者)

これらの一部は、独自のブロックチェーン(テゾスなど)を持ち、あるいはイーサリアム上で特殊な挙動をする。これらを日本法に準拠した形で安全に預かり、ステーキングサービスを提供したり、入出庫の管理をしたりするコストは、CEXにとって文字通りの「牙」となって突き刺さっていた。

裏でどれだけGincoのシステムが優秀であったとしても、売買手数料という「実入り」がなければ、ただインフラベンダーにお金を支払い続けるだけの「ボランティア活動」になってしまうのは、自明の理であった。

第二章:世界的大手に勝てるわけがないという「絶対的格差」

国内CEXが必死に数千万円、数億円のコストをかけて1銘柄を上場させている間に、世界のトップを走るBinance(バイナンス)やOKX、Bybit(バイビット)といったメガ交換業者は何をしていただろうか。

彼らは1日にして数十種類のトークンを上場させ、最先端のレイヤー2やミームコイン、DeFiのイノベーションをノータイムで取り込んできた。

ここに、日本の規制市場が逆立ちしても勝てない「規模の経済」と「流動性の格差」が存在する。

世界の暗号資産投資家、あるいは日本国内のアーリーアダプター(目の肥えた顧客)が求めているのは、今まさにSNSで話題になり、価格が数倍から数十倍に乱高下する「ボラティリティ」と「トレンドの最先端」である。

しかし、日本のCEXが必死の思いで上場させたトークンは、グローバル市場ではすでに「ブームが去った過去の遺物(オールドコイン)」であることがほとんどだった。

今回廃止されたAXS(Axie Infinity)やSAND(The Sandbox)は、2021年のNFT・GameFiバブル時の主役であり、2026年の現在となっては、グローバルでの取引高もピーク時の数パーセントにまで落ち込んでいる。

APEにしても同様だ。

つまり、日本の取引所は、「世界で流行が終わったトークンを、莫大なコストをかけて日本市場に輸入し、過疎化した板(取引環境)で身内だけで売買させる」という、極めて滑稽なビジネスモデルを回していたに過ぎない。

世界的大手が提供する圧倒的な流動性(スプレッドの狭さ、注文の通りやすさ)と、無限に近い銘柄の選択肢。

これに勝てるわけがないことは、3年前、いや5年前の時点で、業界にいる人間なら誰もが分かっていた。

しかし、「他社がやるからウチもやらねば顧客が逃げる」という恐怖心だけで突き進んだ結果、世界的大手に顧客を奪われ、手元には高額なシステム維持費だけが残るという最悪の結末を迎えた。

第三章:売買が増えない「ガラパゴス市場」の構造疲弊

では、なぜそこまでして上場させたのに、日本国内で暗号資産の売買が増えなかったのか。 答えは簡単だ。

日本の「税制」と「スプレッド(販売所形式)」が、顧客の投資意欲を徹底的に破壊しているからである。

暗号資産による利益が「雑所得(総合課税・最高税率約55%)」に分類され、株やFXのような分離課税(一律約20%)や損益通算が認められていない日本の税制環境は、何年経っても劇的な改善が見られない。

この税制の壁がある限り、大口の個人投資家や機関投資家が日本のCEXをメイン口座として使い倒す動機は生まれない。

さらに、国内CEXの多くが「取引所(板取引)」ではなく「販売所(スプレッド形式)」をメインの収益源に据えていることが、一般ユーザーの離反を加速させた。 流動性が低いマイナーなアルトコインを国内で扱う場合、CEXは海外の流動性プロバイダーから価格を引っ張ってくる(あるいは自社でリスクを抱える)しかない。

その結果、買い値と売り値の差(スプレッド)が往復で10%〜20%に達することも珍しくない状態が続いた。

「買ってすぐに10%以上の含み損からスタートし、運よく値上がりして利益が出ても、半分近くを税金で持っていかれる」

このような市場に、新規の個人投資家が定着するはずがない。

結果として、日本の暗号資産市場は「ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)、そしてリップル(XRP)をガチホ(長期保有)する層」だけが残り、アルトコインを頻繁に売買するアクティブトレーダーは完全に海外のDEX(分散型取引所)やVPN経由の海外CEXへと流出してしまった。

市場全体のパイ(売買高)が増えない中で、取引所の数と上場銘柄数だけが増えていく。これは絵に描いたような「パイの奪い合い」であり、しかもそのパイ自体が縮小しているのだから、共倒れになるのは必然だった。

第四章:誰も得しなかったチキンゲームの責任はどこにあるか

この3〜4年間、誰もが得をしないドツボの状況が続いた。この責任は一体どこにあるのだろう。

  1. 経営体力を過信し、横並び戦略に終始した国内CEX

 最も罪深いのは、自社のコアコンピタンス(核心的強み)を見極めることなく、「銘柄数日本一」といった目先のマーケティングバナーに躍らされたCEXだ。

自社の顧客基盤がどれほどのものか、その銘柄を維持するために毎月どれだけの取引高が必要かを冷徹にシミュレーションしていれば、GameFiバブルが崩壊した後のAXSやSANDを、2024年や2025年になってから有難がって上場させるような愚行は犯さなかったはずだ。

  1. イノベーションのスピードについていけない規制構造

JVCEAや金融庁による審査は、かつての「グリーンリスト」導入などで迅速化したと言われているが、それでもグローバルのスピード感からは光年単位で遅れている。日本で安全性が確認され、お墨付きが出た頃には、そのプロジェクトは世界のトレンドから見放されている。この「安全だが死んでいるトークン」しか扱えない規制の枠組み自体が、CEXを構造的な赤字へと追い詰めた。

  1. 煽り続けたメディアと、損をさせられたユーザー

 Web3ブームやNFTバブルの際、これらの銘柄を「次世代のインターネットの主役」として煽り立てたメディア(そして我々のようなライターの一部)にも責任の一端はある。そして最も割を食ったのは、「日本の正規ライセンス業者が扱っているから安心だ」と信じて、高いスプレッドを払ってこれらのアルトコインを購入し、最終的に「流動性不足のため取扱廃止、8月下旬に市場価格で強制日本円返金(おそらく購入時より大暴落した価格)」という憂き目に遭う一般ユーザーである。

誰も得をしていない。システムベンダーであるGincoにしても、顧客であるCEXが赤字でサービスを畳んでしまえば、将来的なストックビジネスの基盤を失うことになる。誰も幸せにならないエコシステムが、ここに完成してしまった。

終章:2026年、ガラパゴス市場の「焦土化」とその先にあるもの

今回のSBI VCトレードの決定は、単なる1社の経営判断ではない。ドツボにハマった日本暗号資産市場における、「戦線縮小・敗戦処理の始まり」である。

今後、他の国内CEXも間違いなくこの動きに追随する。鳴り物入りで増やしたアルトコインの取扱いを「安定的なサービス提供のため」という決まり文句で次々と廃止し、最終的にはBTC、ETH、XRP、そしていくつかのステーブルコイン(USDCやProgmat等で発行される国産ステーブルコイン)へと回帰していくだろう。

しかし、それは決して「健全化」ではない。競合他社との差別化要素を失い、グローバル市場からの隔絶が完成した「焦土化」である。

この状況を眺めるのは非常に苦痛である。

かつて2017年、日本は世界のビットコイン取引の過半数を占める「暗号資産先進国」だった。その誇りと優位性は、度重なる流出事件とそれに伴う過剰規制、そして市場の実態を無視した横並びのチキンゲームによって、完全に潰えることとなった。

分かっていたことだ。世界的大手に敵うわけがないことも、税制が変わらない限り国内での売買が増えないことも、インフラの維持費が経営を圧迫することも、すべて数年前から分かっていた。

それでも、動き出した列車を止めることができず、崖に向かってアクセルを踏み続けた結果が、この2026年の荒涼とした景色である。

日本の暗号資産市場がこの「ドツボ」から抜け出す道は、もはや凡庸なアルトコインの売買仲介ではない。完全に実需に紐づいたRWA(現実資産)のトークン化や、国際送金・決済インフラとしてのステーブルコイン活用など、異なる次元へのピボット(路線変更)しか残されていない。

「上場銘柄数」という虚栄の指標で競い合ったチキンゲームは、死屍累々の山を残して、今ここに事実上の終戦を迎えたのである。

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