ゲーム業界の最新リモートワーク事情

ゲーム業界の最新リモートワーク事情

ゲーム業界の最新リモートワーク事情

コロナ禍を端にリモートワークは多くの業界で広まりました。その中でもゲーム業界は他の業界よりも早く浸透が進んだことは間違いありません。本稿ではゲーム業界ではなぜリモートワークの浸透が早かったのか、現場ではどのように取り入れられているのか、そして今後の課題、そこで働く人にとって抑えておくべき観点などをご紹介いたします。

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  1. 1今後も進むゲーム業界のリモートワークの浸透とその背景
  2. 1.1ゲーム業界自体の業績向上による慢性的な人手不足
  3. 1.2シンクライアント化の浸透とその重要性
  4. 2企業がリモートワークへ移行する利点と課題
  5. 2.1セキュリティの課題
  6. 2.2コストの課題
  7. 2.3コミュニケーションの課題
  8. 3リモートワークで働けることは必須スキルになる
  9. 3.1PCスキル
  10. 3.2コミュニケーションスキル(文章力、理解力、会話力、折衝力)
  11. 3.3自己管理スキル
  12. 4リモートワーク環境で高いパフォーマンスを発揮するには?
  13. 4.1私用スマホは見ない
  14. 4.2マルチモニターを導入する
  15. 4.3昇降式デスクや高機能チェアを導入する
  16. 4.4作業効率が上がるフリーソフトを使う
  17. 4.5仕事と休憩のメリハリをつける
  18. 5孤独リスクへの理解と対策
  19. 5.1若年層が陥りやすい
  20. 5.2基本は体調管理
  21. 5.3積極的にコミュニケーションをする
  22. 6まとめ

今後も進むゲーム業界のリモートワークの浸透とその背景

コロナ禍以降は国や自治体が感染拡大を抑止するため「まん延防止等重点措置」「緊急事態宣言」などを発令したことにより、多くの企業がリモートワークを喫緊に導入する必要がありました。
ゲーム業界はリモートワークの導入実績がエンジニアやデザイナーなど多くの専門職者の作業環境に適用されていた経緯があり、一般職員へと導入拡大することは比較的容易でした。
なぜ、導入実績があったかについて解説いたします。

ゲーム業界自体の業績向上による慢性的な人手不足

近年ゲーム業界は業界規模、売上、利益率のすべてが右肩上がりを続けている成長産業です。新しいタイトルやサービスが数多くリリースされている一方で、必要とする人員は常に不足しています。
ゲーム開発ではエンジニアやデザイナーなど専門職者が不可欠ですが、正社員として人員確保するには企業の予算がそれに耐えきれません。そこで派遣社員やフリーランスのスタッフを契約して各種プロジェクトに参加してもらうケースが増加しました。
そして、より多くの人員を確保するには通勤可能範囲に住む人だけを探しても効率が悪い為、リモートワークを導入して広く募集をかけることである程度の人員不足を補っていたのです。

シンクライアント化の浸透とその重要性

人員を確保しただけではすぐに開発作業ができるわけではありません。ゲーム開発は版権ものなどのタイトルも多く、機密事項を多数扱う業務です。
まずはすべてのスタッフと「秘密保持契約(NDA)」を結びますが、それだけでは対策としては不十分で、書面上の取り決めとは別にワークフロー自体を機密が漏れにくい環境に構築します。代表的な仕組みをご紹介しましょう。

VDI

VDI(Virtual Desktop Infrastructure)とは、作業用PCのデスクトップ環境をOSを含めまるごとサーバー上に構築する技術です。
貸与PCをVPN(Virtual Private Network)接続しただけでは、PC上にあるローカル環境での業務ができてしまうため、機密情報が漏れてしまうリスクがあります。VDIを利用することで機密が漏れてしまうケースを防ぐことが可能です。

DaaS

DaaS(Desktop as a Service)は「デスクトップ環境を提供する」という意味で、VDIのようにサーバー上ではなくクラウド上にデスクトップ環境を構築するサービスで、クラウド事業者そのものを指すこともあります。

業務を行うクライアント端末(作業PC)において、ローカル環境にデータを保存することなくサーバー上、あるいはクラウド上でのみで業務を行う軽量化されたクライアント端末のことを、「シン(THIN:薄い・痩せた)クライアント」と言います。
また、対比する言葉に「ファット(FAT:厚い、太った)クライアント」があり、ファットクライアントとはHDD(SSD)にあらゆるデータが蓄積されていくPCを指します。

ゲーム業界は業務環境をシンクライアントによるデータ的に軽量化されたPCを導入することで機密保守をする流れが顕著にあり、この背景があった為、業務全般をリモートワークへ移行する判断をいち早く行えました。感染予防はきっかけに過ぎず、そもそもリモートワークに移行することが業界として必然だったのです。

企業がリモートワークへ移行する利点と課題

ゲーム業界がリモートワークを導入した流れは新型コロナの流行と、もともと移行する流れがあったことが背景にありました。そして利点も複数あります。
出社コストが 無くなることで交通費を削減できたり、従業員の可処分時間が増加するので労働満足度が上がります。また、事業所の光熱費や各種オフィスコストを低減させることが可能です。

これらが恒常化してくると事業所をよりコンパクトで家賃の安い立地の事務所やコワーキングスペースへの移転が可能となりました。実際に大手デベロッパーやパブリッシャーの中には事務所を移転した企業が多くあります。
しかし、リモートワークへの業務移行は良い点ばかりではなく、解決しなければならない課題もあります。

セキュリティの課題

リモートワーク技術のVDI、DaaSによるPC上のセキュリティへの取り組みで一定のセキュリティ対策はなされますが、それだけでは完全なる問題解決には至りません。
各作業者が機密情報を目視した時点で漏洩はしているためです。
秘密保持契約(NDA)を結んでいても、意識の低い人はお酒の席などでつい知り合いに話してしまったり、匿名をいいことにSNSに投稿したりとそのリスクは常に存在します。
技術の進歩によるPC上での機密を守る仕組みは進みますが、人的リスクによる危機管理としては、高い頻度で啓蒙活動をし続けることが必要です。

コストの課題

セキュリティ対策自体は取れる手段があるといっても、即座に対応できない事情として避けられない問題があります。費用面でも人員的にも高コストであることです。
例えば、VDIを自社に取り入れるには専用のサーバー環境の構築が必要になります。機材も知識や経験を有する人員を確保しなければなりません。
また、DaaSを採用するにしてもクラウドを提供する事業者に支払う料金が必要です。
他にも、作業者に機密保持意識の重要性を認識し続けてもらうには、定期的に独自のテストを実行するなどの対策をするための、人員と時間のコストもばかにはなりません。
リモートワークは新しい働き方の一つになり始めましたが、取り入れるためのコストはやはり発生してしまうのです。ペイするには相応の利益を生み出す必要があります。

コミュニケーションの課題

多くのゲームの制作現場はアジャイル開発で進められます。綿密な設計をもとにプロジェクトが進行するのではなく、作りながら短期間でブラッシュアップを繰り返しながら開発していくスタイルですのでスタッフのコミュニケーションは重要です。
フラッシュなアイデアも隣の人とすぐに検討しあい、適宜ミーティングを重ねて仕様に反映させていくような従来の現場のあり方はリモートワークでは難しいといえます。
人の持つ温度感や感情は対面業務でないと相互的な理解は厳しいのが現状です。

リモートワークで働けることは必須スキルになる

ゲーム企業は様々な要因から業務をリモートワークへ拡大移行しています。大手の企業がいち早く導入し業務工程が下流に流れていく過程で、中小企業もその流れに沿う形となることは自明です。
また、新型コロナウイルスのような新たな感染病に対するリスクへの対応としても、リモートワークへの業務移行は最重要課題であることは間違いありません
ゲーム業界で働くことはリモートワークをすると同意になることはもはや時間の問題となるでしょう。そしてリモートワークで働けるスキルを身に着けていることが、ゲーム業界で働くことでは必須となります。では、具体的にリモートワークに必要なスキルとは何なのかを解説します。

PCスキル

基本的なPCスキルはこれまでも必須のスキルでしたが、リモートワークとなることでゲーム企業から要求されるPCスキルはより高度になることが予想されます。
例として「Zoom」や「Google Meet」などのWEB会議アプリがあります。これらを使うことができなければそもそも業務に参画できません。共有されたリンクをクリックするだけならば難しいことはありませんが、自分で会議部屋を目的に合わせて設定し共有するとなると、意外にできない人は多いので、予め習得しておくことが必要です。
また、日常的に使われているChatWorkやSlackなどのチャットアプリも高度な使い方が要求される場合もあります。
さらに高度な現場ではエンジニア以外の職種でもGitHubやUnityといった普及が進んでいる開発環境系のアプリの操作スキルを求められるケースが増えるでしょう。

コミュニケーションスキル(文章力、理解力、会話力、折衝力)

リモートワークであろうとなかろうと、さらに言えばどんな業種であろうと仕事に必要なのはコミュニケーションスキルです。業務を行う以上、人との繋がり無くしては成り立ちません。リモートワークでは対面会話ができないことからコミュニケーションスキルの重要性がさらに高まります。

まずリモートワークになると業務のやり取りはチャットがメインになることが大半でしょう。対面会話では言葉足らずだったり、一度では通じないことでもその場で説明し直すことは容易です。また、表情や身振り手振りから相手が察してくれる場合も少なくありません。しかし、チャット上では書かれている文章が全てになります。つまり、相手に伝わりやすい文章を書けることが一つのスキルとなるのです。

一方で文章を読み取る理解力も求められます。仕事の相手が必ずしも解りやすく論理的な文章で連絡してくれるとは限りません。何を伝えようとしているのか、欠けている情報は何なのかなどを読み解く理解力も重要です。

ビデオ会議などに参加する際はしっかり自身の思考していることを参加者に伝える会話力も今まで以上に必要になります。相手が見えているとはいえ、画面上の小さな窓の正面からのみの画像に対して自身の言葉で伝えることは思っている以上に難しいものです。

会話を通じて正しく議論を行う折衝力も問われます。言いたいことだけを言う、解りたいことだけを聞くという態度では生産性は向上しません。また、堅苦しいだけの折衝は相手にも自分にとっても退屈な時間になります。ゲーム開発は「面白い」を作る仕事ですので、時には場を楽しめる雑談力も必要です。

自己管理スキル

リモートワークになると自身を正しく管理することが今までよりも重要です。有り体に言えば、人の目に晒されない環境というのは得てしてサボりやすいからです。
自分が成すべきことは何なのか、スケジュール通りに進んでいるか、何をしているかをチームに共有できているかなど、直接的な上司や同僚の目が無いので常に自己管理をすることが大切です。

リモートワーク環境で高いパフォーマンスを発揮するには?

多くの人にとってリモートワークの場は自宅となる場合が多いでしょう。自宅は自身が安らぐ場として最適化されているもので仕事に適した環境ではありません。高いパフォーマンスを発揮するには、それに適した環境作りが必要です。

会社へ出社する場合の自席の環境は「リラックス」できるようにすることが多いですが、リモートワークでは逆に「集中」できることが重要です。集中するための要素について具体的に紹介します。

私用スマホは見ない

私用で使っているスマホは、業務で必要とすることがない限り遠ざけておくことが無難です。ゲームやSNSをして集中を乱す恐れがありますので引き出しにしまっておくなど視界に入らないようにしたほうが良いでしょう。

マルチモニターを導入する

会社から支給されるPCは、エンジニアやデザイナーなど高いスペックが必要な場合を覗いては殆どがノートPCです。しかし、殆どの作業現場においてはノートPCの画面1枚では作業領域としては狭く感じるでしょう。
効率的に業務をこなすには、外部モニターを1枚追加してマルチモニターにすることでほとんど解決できます。モニターは会社に申請すれば貸与してくれる場合が多いですが、長く付き合うモニターですので自分にあったモニターを購入することも検討してもよいでしょう。

昇降式デスクや高機能チェアを導入する

正しい姿勢を保つことで集中を高めることができますので、デスク、チェアを自身の身体に合わせたものを使うこともオススメします。正しい姿勢は個人によって異なりますので高さが調整できる昇降式デスクはとても便利です。
また、長時間座るので背中や腰の負担を和らげる高機能チェアも用意できると仕事がはかどります。

作業効率が上がるフリーソフトを使う

集中力はPC内で便利なフリーソフトを使うことでも高めることができます。無数にあるフリーソフトの何を選ぶかはその人の仕事の内容にもよりますが、以下で紹介するソフトは多くの場合で役立つことが多いと思いますので是非お試しください。

WinXCorners(https://github.com/vhanla/winxcorners)
マウスカースルをモニターの四隅に移動させるだけで、指定した動作が実行できるソフトです。同様の動きをMacでは標準機能(ホットコーナー)として搭載されていますが、このソフトでは同様のことをWindows環境でも実行できます。ゲーム開発では多くのアプリを使用しますのでTabキーの組み合わせを使わなくてもマウスカーソルの移動だけで切り替えができるので慣れると手放せなくなるほど便利です。

ChangeKey(https://forest.watch.impress.co.jp/library/software/changekey/)
キーレイアウトを自由に変更できるソフトです。使用例としてCapsLockキーを無効化してミスタッチを防ぐことができます。文章を多く扱う仕事では意外に重宝しますし、ミスタッチは集中を削ぐ要因になりますので得られる恩恵は大きいです。また、このソフトは常駐化できますので一度起動させておけば都度起動させなくても済むことも利点の一つです。

LICEcap(https://www.cockos.com/licecap/)
パソコンの操作画面をGIFアニメで録画することができるソフトです。各種ツールの使い方を説明したり、エラーが発生した様子を動画で説明できることで相手に伝わりやすくなります。キャプチャー機能を使えば同様のことができますが、使うのに手間と時間を要します。しかし、このソフトは使い方が簡単で録画はワンクリックで済み、GIFアニメですから容量も軽くチャットで気軽に送ることができます。使い方はピンポイントですが業務効率を大きく向上させることができるでしょう。

仕事と休憩のメリハリをつける

休憩も仕事のパフォーマンスを維持するには必要な要素ですので、意識して立ち上がって伸びをする、部屋の換気をするなど適宜休憩を設けてそのタイミングで飲食をするように心がけるのが大切です。

孤独リスクへの理解と対策

リモートワークは出勤しなくて良いことや、そのことで増える可処分時間の増加など目に見えてわかりやすいメリットに注目がされがちですが、避けては通れないデメリットもあります。それは孤独リスクの問題です。

若年層が陥りやすい

出社して業務を行う際は常に仕事をしている訳ではなく、適宜雑談によるコミュニケーションが行われていました。天気の話、話題のゲームの話、時事の話など業務には直接関係ありませんが互いの関係性を活性化する潤滑油の役割を成していました。
リモートワークではこうしたちょっとした雑談がしづらくなったことで会話の機会が減り、孤独感を多く感じる人が増えているというデータがあります。
家族やパートナーと同居している場合は会話の機会は常にありますし、ある程度年齢を重ねていると、モチベーションや気力の低下、コミュニケーション不足による孤独感の増加などに耐性が付いたり、独自の気持ちの立て直し方を学んだりもしています。
しかし、独身者かつ若年層の場合対応できず孤独感に苛まれるケースが多く発生しています。コロナ禍においては友人と外で会う機会も減りますし、旅行、会食の機会も減っていることから孤独感から抜け出すことは難しいでしょう。

基本は体調管理

孤独を感じることやその他の精神的な不調の原因はリモートワークだけではありません。身体の不調に起因する場合も非常に多いのです。
在宅時間の増加により外出時間が少ないと運動不足になりがちです。また、スクリーンタイムが長くなることで睡眠の質が落ちたり、睡眠時間が減少したりします。食事も宅配サービスの頻度が多くなり、栄養のバランスが悪くなりがちです。
リモートワークに従事する際は、以前よりも体調管理をしっかりと行う必要があるのです。

積極的にコミュニケーションをする

コミュニケーションの基本は「あいさつ」です。これだけは必ずするように心がけましょう。そして、あまり相手を気遣いしすぎないようにし、気の知れた相手ぐらいには時には仕事の愚痴をこぼすのもいいでしょう。あえて、無駄に見えるような会話こそコミュニケーションの始まりで、その関係性があってこそ生産性の高い仕事につながるのです。

まとめ

ゲーム業界は技術の進歩が早く、リモートワークとも非常に相性がよいため普及はますます進んでいくでしょう。その分、そこで働くとなると高いスキルとコミュニケーション力を求められます。しかし、最新ゲームの開発現場はゲーム好きにとっては他では味わえない楽しく充実した経験を得ることができます。リモートワークで変わった働き方の変化を正しく理解し、今後のゲーム業界に注目していきましょう。

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ライター

H・J

業界歴20年のベテランゲームプランナー兼WEBライター。数多くのゲームタイトルの企画制作に携わり、現在は某有名IPの運営にプロジェクトマネージャーとして参画。WEBライターとしても活動中で、これまでに培った経験や体験をもとにゲーム業界に関する様々なノウハウや最新情報などを発信中。

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