大手ゲームメーカー出身の日本人アートディレクターが品質を担保 日本語対応と品質が魅力のプロ集団(Indigames 野津様)【メタバースインタビュー】
「メタバース」というバズワードとソーシャルゲームの高品質化に伴い、3DCGの人材不足が叫ばれて久しいです。それに伴って、海外のオフショアに業務を発注する会社も増えてきていますが、一方で「日本語対応ができる業者がいない」「あがってきた制作物のクオリティが自社基準に達していない」などの声も散見されています。
株式会社Indigamesは、ベトナムに拠点がある日本人が運営するゲーム開発会社です。一方で、大手ゲームメーカー出身の日本人アートディレクターが品質を担保し、オフショアを感じさせない日本語対応が行えることで、3DCG制作を中心に急成長を続けています。
今回は、同社の野津様にお話を伺い、Indigamesの技術力と、制作を支えるチームについてお話を伺いました。
Indigames 野津 幸治 様
「Indigames」はここが凄い!
- 海外オフショアの中でも「日本的な」3DCGを高クオリティで作り上げる
- 日本人スタッフが現地に駐在すること、日本語能力の高いベトナム人プロジェクトマネージャーをアサインすることで、スムーズな日本語でのコミュニケーションが可能
- 大手ゲームメーカー出身の日本人アートディレクターがコンテンツのクオリティを担保する仕組み
「日本が組むべきパートナー」ベトナムの魅力
―――本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます。
―――Indigames様は、日本とベトナムの両方に拠点があるゲーム会社様で、特に3DCGの制作に強みがあるスタジオ様だと認識しております。
―――そもそもですが、ベトナムに3DCGスタジオを作ろうとしたのはどういった経緯なのでしょうか?
野津「私が前職でベトナムの子会社代表になったのは2014年のことですが、まず前提として、日本のゲーム産業にぼんやりとした危機感を当時抱いていました。理由としては、当時から日本の人口がどんどん減っていくのを目の当たりにしてきたためです。特に労働人口、若手が減ってる。」
野津「そういった人口減少の状況を見ていると『このままだと日本のゲーム産業は、作り手ががいなくなってしまうんじゃないか……?』という強い危機感を感じるようになったんです。」
―――そもそも人がいなくなるとなれば、作り手もいなくなる訳ですからね。
野津「はい。労働人口が減るということは、事業継続性が担保されないということとイコールだと思います。」
野津「現に今も、採用コスト(人材を採用するのにかかる費用)は上がっていますし、いくらお金をかけても、そもそも人がいないから採用できないという状況があります。」
野津「と、考えたときに、日系のゲーム企業がものづくりをしていこうとするなら『海外の人材を採用する』か『海外の会社と共同制作していく』だろうなと、当時から考えていました。」
野津「そういう考えもあって、実際に海外に住んで接してみようと思い、私は2014年から17年の3年間、『Donuts』というゲーム会社で、ベトナムの現地代表をしていました。もちろん、ベトナムのハノイに実際に住んで、現地のベトナム人スタッフと接していました。」
―――実際にベトナムの方と過ごして、いかがでしたか?
野津「実際に接してみると、彼らは非常に勤勉だし、頭もいい。人口も増えてるし発展もしている。また、特にゲームビジネスに不可欠なエンジニアが非常に多い国であることも魅力でした。」
野津「また特に3DCGは、アメリカのハリウッドから帰ってきた『本場の』人たちが3DCGのスタジオを作っています。」
野津「映画向けのリアリティのある制作が得意で、既にこの分野で活躍されてる方が何人もいる。そういう状況だったんで、ゲームビジネスとの相性は十分あると思いました。」
野津「日本のゲームビジネスが組むべきパートナーは、間違いなくベトナムです。」
野津「もちろん、他の国のことも調べたのですが、ベトナムとゲーム業界の相性は抜群だと思いました。当時でも既にゲームのオフショアの会社ってのはいくつも存在していて、オフショア自体にも十分可能性がある。」
野津「Donutsのベトナム支社長をしていた時から、将来的にはベトナムはゲームのオフショアにおいてメインの舞台になるのかな……と考えていました。」
野津「そこから3年間、ハノイに住んでる間にベトナムでの事業の進め方、会社立ち上げのノウハウ、採用をどうやればうまくいくのか等、向こうでの企業経営というのを一通り経験しました。それを経て、今から4年前、2018年にIndigamesを起業しました。」
「日本的」なハイクオリティを生む!制作力の源とは
―――Indigames様のベトナムのスタジオを立ち上げるとき、立ち上げの段階から現地に日本人が行かれていたそうですね?
野津「そうです。当社のナンバー2とナンバー3にあたる、CTOとチーフデザインオフィサーの2名。それ以外にも2名。合計4名の日本人が駐在しています。今後もどんどん送り込む予定でいます。」
―――現地に日本人が駐在することによって、会社としてどういったメリットがあるとお考えなのでしょうか
野津「第一に教育ですね。特に3DCGの仕事は日本のゲームメーカーさんとかの案件が多いので、日本的なキャラクターをデザインしなくてはいけない。また、テクスチャーもやっぱり日本的なテクスチャーの書き方っていうところがあって、そういう『日本的』なクリエイティブは現地スタッフに教えていかなきゃいけない。」
野津「そういったこともあるので、日本からリモートで教えたり出張で教えたりするよりは、ベトナムに駐在して直接、教育をした方がより効率的です。3DCGは『もの作り』なので、膝を突き合わせて一緒に作業して、お互いのことを理解し合いながら進めた方が、いい結果が出る。」
―――3DCGにも「日本風」とか「海外風」とかの違いがあるものなのでしょうか。
野津「海外ではリアル系というか、日本以外の国は欧米系の創作の影響を受けてるのでリアリスティックなものが多いです。特にアメリカとかの影響を受けてるケースがベトナムも多いので、そういったテイストでの制作の方が、元々は得意だったりしますね。日本のアニメとかは、世界の中で見たときに、やっぱりキャラクターとかがちょっと独特なんです。」
野津「とはいえ、教える『相手』が日本人だったらいいんですよ。日本人は、物心ついたときには『ジャンプ』を読んでて、気づいたら『アニメ』を見ていて。アニメやコミックに埋もれて生きてきているので、サブカル的なセンスって、もう子どもの時から勝手に入ってくるんですよね」
野津「ですが、ベトナムではよっぽど好きでないと、子どもの時からそういう情報を取りに行くことはしない。とはいえ日本のコンテンツみんな大好きなんで、高校生とかになると自分でネットで調べるとかしています。しかし一方で、幼いときから積みあげてきた、コンテンツに触れてきた経験値が日本人とはまだまだ違う。そこを埋めてあげる必要があります。」
―――ですが、Indigames様のベトナム人スタッフはそういった『日本的』なクオリティを生むことができる。
野津「我々一生懸命教えてるっていうのもあるのですが、何よりも彼らは勉強熱心です。僕も来週からベトナム行くんですけど。現地にいるベトナム人のデザイナーから『このアートブック買ってきてください!』みたいなのを頼まれています。『私、社長なんだけどな……』と思いながらも、買っていきますけど笑」
―――なるほど、現地の方はそれを見て勉強されてる。
野津「はい。本当に勉強熱心です。」
野津「あとは、現地に日本人がいると、日本人ディレクターが制作の最後の仕上げができるというメリットもあります。」
野津「スタッフにもレベルがあるので、ベトナム人のミドルクラスのデザイナーとかジュニアの人材で大体6割7割ぐらいのクオリティまで持っていける。その後に、ベトナム人の腕のいいシニアスタッフたちが9割の完成度まで持ってこれるんですよ。」
野津「でも制作とは難しいもので、どうしても埋められない10%っていうのがあるんです。文化の違いがあるので、彼らはかなりいいところに制作物のクオリティを持って来てくれるんですけど。もうちょっと調整した方がいいよね、みたいなところがある。」
野津「そこで最後に、日本人のアートディレクターの数名でその『文化の差』を整える。だから、海外のオフショアだけど100点に持っていけるっていう状態にしてます。」
野津「ベトナム人のスタッフも、よりスキルを上げて理解してもらう、っていうことは努めてはいるんですけども。とはいえ、できないことはあるので、もっと経験積まないといけない。できてないところは、できないことなんで、そこは他で埋めるしかない。」
野津「そういった形でベトナム人のシニア人材と日本人のアートディレクターで、最後にクオリティを100まで持っていくところをしっかりやっているのが特徴ではあります。」
―――indigames様の制作力は、現地に「日本式」を理解している人間が駐在することによって、教育と制作のクオリティが担保されている点がまず一つ。
―――そして、勉強熱心な国民性なのでどんどん学び、現地人スタッフが制作力をあげているということで担保されているのですね。
野津「そうですね。そこは非常に丁寧にやってるとこですね。具体的には、基本的なことですけど日本のゲーム、日本のIPが多いので、日本式の物を作るときにどういうところを意識した方がいい、とかはかなり丁寧に教えてます。」
―――なるほど、制作の技術というよりも、制作物の文化みたいなところを練り合わせてらっしゃるんですね。
野津「そうですね、そういうふうにするにはこの辺意識した方がいいよとか、テクスチャーの書き方がちょっと違ったりします。キャラクターによって、作り方とか特徴があります。その辺はしっかり。IPによって微妙に特徴が違ったりするんで、その辺もちゃんと教えるようにしてます」
―――なるほど、そこまで丁寧にやられてる会社さんってなかなか無いのではないかと思います。
野津「多分ある程度はやられているかなとは思うんです。でも、会社全体としてオフショアで事業をしている場合、日本人と海外人材のバランスは、多分、1対9とか5%対95%みたいなケースが多いと思うんです」
野津「うちは20人と80人なので、基本2対8を必ずキープするようにしています。ディレクターとかは、僕ら日本人の方が多いんですけど、ちゃんとベトナムのスタッフたちと関わって、一緒に物を作り上げるような体制を作ってます。2対8が一番僕ららしく、しっかり教えながら一緒に作れるかなっていう人数バランスだと思っています」
―――しっかりと日本の文化とか、日本の企業が求める制作みたいなところを、すり合わせしながらやっていってらっしゃるように思います。
日本語完全対応!潤滑なコミュニケーション
―――日本人が多く、日本的なものを作れる制作力があるとなると、日本企業からのご依頼も多いと思います。
野津「有難いことに、お仕事いただく事も多いです。ですが、なんというか、あんまり『オフショア』だと思われてないみたいですね。」
―――具体的にはどういったことなのでしょうか?
野津「まず、先ほど申し上げたように、うちは日本人:ベトナム人を2:8の比率にしています。」
野津「つまり、現地の制作スタジオと日本語でやり取りができるんです。」
―――外国語に苦手意識がある人からしたら、日本語対応可能はありがたいですね。
野津「とはいえ、日本企業のお客様との共同チャットに、うちのベトナム人のプロジェクトマネージャーが入ったりしていますけど、めちゃくちゃ日本語うまいです。」
―――確かにそのレベルですと、「海外のオフショアに依頼している」というよりも、「日本の制作スタジオに依頼している」のと、コミュニケーション面では大差がないように思えます。
―――まさしく、海外の中にある「日本」のスタジオなのだなと感じました。
野津「コミュニケーションという括りで言うと、社内でのコミュニケーションにもこだわりがあります。お互い文化を共有してる日本人同士ではないので、ベトナム人のスタッフに指示を出したり教えたりするときは『直接』かつ『明確に』必要なことをちゃんと指示しなければいけないんです。」
野津「先ほどお伝えした通り、ベトナムの人たちは非常に勉強熱心で、学びたい人たちなんです。成長する意欲は十二分にある。だからこそ、僕ら日本人スタッフもわかりやすく『課題』や『こうしたら上手くいくよ』っていうのを伝えるようにしています。」
野津「そのメッセージがしっかり伝われば、彼らもしっかり勉強して、成長して、私たちに返してくる。」
―――違う国の出身者同士でビジネスをするにあたって、持ってる分野や前提が違う。
―――だからこそ活発にコミュニケーションを取って、もの作りをされてるのを感じました。
野津「はい、そこを怠らないのが違う国同士で仕事を進めていく上では一番重要だと僕は思っていて、今まさにそれをやっています。」
野津「あとは、相手の文化に対するリスペクトですね。僕らも彼らを理解しなきゃいけないし、彼らにも僕らを理解してもらわなきゃいけない。」
野津「こういった異文化コミュニケーションは双方向だと思うんで。『俺たちが君たちを使ってやるぞ』みたいな意識だと、絶対にうまくいかない。ベトナム人スタッフと一緒に、どう成長していくか。どうやって制作していくか。そういったことを一つ一つ積み重ねている感じです。」
―――文化が違う相手のこともしっかり理解しつつ、一緒にビジネスをしていくというお話だと感じました。ありがとうございます。
多様なプラットフォームでのコンテンツづくりに対応
―――制作にも色々な分野があると思いますが、得意とされているのはどういったジャンルなのでしょうか?
野津「スマートフォンゲーム、ソーシャルゲームが得意です。その中でもやっぱり3D。」
野津「スマホの中でもリッチな3Dを使っていて、アクションバトルとか、キャラも作れるし、モーションも作れるし、背景も作れるんで、そういったものが多いですね」
野津「代表的なところですとDeNAさんの『メギド72』っていうゲームです。『メギド72』に出てくるキャラクターと、キャラクターモーションを、当社で相当な数作りました。」
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―――今は更にレベルアップされているのかなとご推察します。
野津「あと、最近の実績としましては、キングダム2のアニメーション制作も弊社で協力いたしました。」
―ーーIndigames様が非常に多様な分野でご活躍されているということが、非常によくわかりました。
―――今はどういったご依頼を受けることが多いのでしょうか?
野津「一応3Dに関して言うと、一番多いのはスマートフォンで新規に3Dのゲーム作りますって言ったときに、キャラクター、アニメーション、背景の、3D全部お願いというご依頼があります。もちろん、キャラクターモデリングだけ、キャラクターモーションだけ、背景だけというご依頼も喜んでお受けしています。」
野津「制作のご依頼の中でも、うちが一番パフォーマンスを発揮するのは量産だと思うんですよ。新規のスマートフォンの3Dのゲームだと、すごい工数なんです。キャラクターもローンチ時点で100体とか必要です、それぞれの必殺技も必要ですし、背景のステージが20個必要です。そういう量産系のものは比較的得意ですね。やっぱり、コストパフォーマンスがいいぶん、量産の方が発注側にとってもメリットが出る」
―――3Dって聞くと、ムービーみたいな一連のアニメーションを納品します、というイメージを持っていました。
野津「インゲームムービーもやってますね。インゲームムービーはPS5のハイエンドムービーもお手伝いしました。」
―――今のお話を聞いていると、得意不得意みたいなところはあると思いますが、なんでも作れそうだとおもってしまいます
野津「ほんと何でもやってます。例えばですけど、インゲームムービーだったりとかは、それこそアニメ・フルCGの映画。例えば、こないだキングダム2のアニメーションもちょっとお手伝いしてるんですけど、そういうのは絵コンテがあれば作れるんです。ただ、絵コンテを考える、絵コンテを作る人材ってのはうちにいないので、そういう制作会社さんと連携しております。」
―――なるほど、ありがとうございます。3DCGの世界も奥が深いのだと感じました。
ベトナムの中にある「日本」 Indigamesにお任せしてみませんか?
―――最後に、Indigames様が今後どういったご事業をされていくのか、どこに向かっていくのかについてお伺いしたいです。
野津「Indigamesはゲーム事業に関しては3つの分野でやっています。一つは、ハイパーカジュアルゲームです。このジャンルでは実はもう60本もローンチしています。ここはもうヒットを狙いながらどんどんローンチしていこうと思っています。」
野津「もう一つは、ライブゲーミングという分野ですね。これは、配信アプリ上で配信者と視聴者が一緒にインタラクティブに協力しながら遊べるゲームです。これは非常にマーケット大きい可能性があるので、ここに関しても力を入れていこうと考えています。」
野津「そしてもう一つは、NFTゲームですね。非常に可能性があると考えており、ゲーム会社として、グローバルにヒットを狙っていくことに注力しています。」
―――ゲーム会社として、手広く開発をされていくということですね。
野津「それを支える技術面でいうと、実はゲームエンジンを自社で持ってるんです。このゲームエンジンを磨いていきたいなと思ってます。今既にもうカジュアルゲームは作れるようになっていますし、Webブラウザのゲームもそのエンジンから書き出せるようになってるので、このペースでいけば相当使い勝手のいいツールになっていくと思います。これを、いずれオープンにしていきたいなと。」
―――つまり、今はその自社の会社の中だけで使っているミドルウェアをオープンしていくということですね。
野津「はい。あとは、3DCGのところでいくと、事業をどんどん拡大していきたいと思っています。今現在、本当に日本企業さんからのご相談が多いのですが、皆さん本当に3Dデザインに課題を感じていらっしゃる。そこに関して、しっかり受け皿を作っていって、オフショアという立場で日本のゲーム業界にも貢献していきたいと思っています。」
―――本日はお忙しい中、ありがとうございました。