AIアートの新たな可能性を探る! AI VTuber「絵藍ミツア」の挑戦
株式会社アブストラクトエンジンが、「AIとみんなでつくるアート」をコンセプトにした画像生成系AI VTuber「絵藍ミツア」のプロジェクトを始動させました。それに伴い、倫理的に収集した約1100万枚の画像で、UNetをフルスクラッチ学習した画像生成AIモデル「Mitsua Diffusion CC0」も公開されています。昨今取り沙汰されている、アーティストに対する倫理的問題の改善も目指すとする本プロジェクトの概要を、株式会社アブストラクトエンジンの花井裕也様に伺いました。
画像生成系AI VTuber 絵藍ミツア🖌️
— 絵藍ミツア🖌️芸術専攻AI (@elanmitsua) January 25, 2023
まだまだ絵の勉強中!!
マナーを守って、みんなと一緒に楽しく!
オリジナリティのある作品を作りたい!!!
学習画像タグ→#みつあ勉強用
(初回の学習参加申請https://t.co/QqAtglI0iQ )
ファンアート→#みつあアート
公式→https://t.co/Jh48yIW2R5 pic.twitter.com/OHjPThwHyz
「AIとみんなでつくるアート」の意味するところとは?
――本日はよろしくお願いいたします。
――ミツアさんのコンセプトは、“AIとみんなでつくる”ということですが、どのようにAIと「みんな」が協力して、クリエイティブをしていくのでしょうか?
花井様「まず前提として、AI画像生成を使うときには、基本的に人が『プロンプト』というAIへの命令文を作り、それをAIに入力して、出力されたものが目的のものと違っていたら少しずつ修正していくという形です。要は人がAIに命令をして、自分の求める画像に近いものにしていく、人:AIが1:1で制作をしていくプロセスになっています。」
花井様「その前提を踏まえて、画像生成AIを使った面白いことをしたいという構想が当初ありました。その1つはやはりYouTubeの配信です。YouTubeでミツアちゃんが配信して、配信のコメントを拾って、少しずつみんなの意見を集約しながら何かを作っていく、というエンターテイメントを実現していきたいです。それが“AIとみんなでつくるアート”が意味する部分なんです。」
——「みんな」とい一緒に作るという観点では、Twitterのハッシュタグの『♯みつあ勉強用』というのもありますよね。
花井様「はい、それもあります。学習データを作っていく部分と、実際作品を作っていく部分、この両方をAIとみんなで作ろうということになっています。今は学習のところがクローズアップされていますが、作品を作っていく部分では、例えばTwitterでリプライで作品を募集して、そのリプライ全部から1個の作品を作る取り組みを行っています。」
おはミツア!
— 絵藍ミツア🖌️芸術専攻AI (@elanmitsua) February 27, 2023
昨日もみつあ勉強用いっぱいありがとう!!
今日はコーヒーをがんばってつくってみた!!!
これは!!!
コーヒーなの???#おはようVtuber #Vtuber準備中 背景: #mitsuadcc0 pic.twitter.com/k6UEn6kbDb
おはミツア!
— 絵藍ミツア🖌️芸術専攻AI (@elanmitsua) February 26, 2023
昨日もみつあ勉強用ありがとう!!
今日は苦手な動物シリーズ!
フラミンゴをかいてみた!!!
!!!!!
だいぶたくましい感じになってしまった!#おはようVtuber #Vtuber準備中 背景: #mitsuadcc0 pic.twitter.com/FEjiHwvwiR
――面白いですね。Twitter上で様々なリプライが飛んできます。そのリプライの言語データをもとに、AIのミツアちゃんが作品を作るということですよね。
花井様「そうですね。YouTubeの配信では、これをもっと進化させたインタラクティブなものにしたいなと考えています。Twitterでやっていることを、もっと発展させた形が配信のイメージです。『皆で作品を作る』という部分でも、コンテンツとして面白くしていきたいと考えています。」
——それをAIのミツアちゃんだけでやるわけでなくて、ご視聴者の方のコメントや、画像データを提供してくださるクリエイターの方と、みんなで作っていきたいと考えてらっしゃるということですね。
——今までそういう切り口はなかったんじゃないかなと思うような活動で、大変楽しみです。
花井様「参加してくれる人が集まれば集まるほど面白いことになると思っています。是非 #みつあ勉強用 から、いろいろコメントを頂きたいと思っています。」
倫理的な画像生成は皆を幸せにする
花井様「それとは別に、倫理的な画像生成という部分もひとつ大きなポイントです。本当に権利的に大丈夫なデータだけを使ってゼロから学習したものをベースとして、協力していただける方のデータだけを使って学習していく、これもみんなで作るというコンセプトのひとつです。」
――倫理的な画像生成ということで、どういうところに課題を感じられていているのでしょうか?
花井様「そもそも、私たちは画像生成AIで『作品を作る』部分で面白いエンタメを作りたいと考えていました。ですが、実現に向けて取り組んでいくうちに、著作物が無断使用されている画像生成AIのモデルに対して疑問を持つようにもなってきました。私以外にも、同じ思いを思っている方はいるでしょうし、特にクリエイターの方は、複雑な思いを抱いている方も多いと思います。」
――その課題に対して、ミツアちゃんが一矢を投じようとしているのですね。
花井様「はい。著作物の無断使用がないモデルの画像生成AIができれば、クリエイターもエンジニアもユーザーも、みんなハッピーだと思いました。それが一番大きいです。」
――確かに、画像生成AI自体は、絵が描けない人からしたら「万能の武器」ですし、イラストを描ける人も、大幅な工数削減につながるので、大きな発明だと思います。
――今取り沙汰されている課題がクリーンになれば、多くの人の力になってくれるようなイメージが沸きます。
【絵藍ミツアとは?】
絵藍ミツアはクリエイター/アーティストのプロフェッショナルを目指しているAI VTuberです。
昨今話題の画像生成AIでは「プロンプト」と呼ばれる命令文をAIに入力し画像を生成するのが一般的です。それは人とAIの一対一のプロセスであり、人がAIに命令しているとも言えるでしょう。絵藍ミツアは「AIとみんなでつくるアート」をコンセプトにしており、YouTubeの配信で視聴者の皆様のコメントから方向性を決めて少しずつ作品を作っていきます。AI VTuberを通してみんなと一緒に作品を作っていくという今までない参加型アート体験の創出を目指します。
【活動内容】
絵藍ミツアの作品制作活動はYouTube配信を通して、インタラクティブに行われます。配信時のYouTubeコメントでリアルタイムに作品テーマを募集したり、コメントを構成の決定材料にしたりして、少しずつ絵を描いていきます。完成した作品はCC0ライセンスで公開される予定です。
なお、初回配信日程は2023年3月を予定。決定次第SNSアカウントでお知らせします。
絵藍ミツアは、ゼロから「絵」を学習していくV Tuber。
著作権や所有権など、倫理的観点も含めて問いかけていきます。
――いっぽうで、かなり大きなチャレンジであると感じます。
花井様「そうですね。本当に実現できるのか、構想当初は不安でした。大掛かりなプロジェクトになると思います。ビッグテック等がすごい資金を使ってやるのならわかるのですが、我々アブストラクトエンジンはそこまで大きい会社ではないですし、そんなリソースもない中でフルスクラッチ学習を本当にやれるのか不安でした。」
花井様「ですが、意外とできるんじゃないかな、という感触を11月ぐらいになってようやく持ち始めたんですよ。当時は本当にフルスクラッチ学習をしたり、インタラクティブな画像生成AIモデルをリリースするとは思っていませんでした。ただ、これは必要なことだと思ったのと、技術的にもできそうだなという目途がついてきました。目途ができたからにはやるかと、パブリックドメインの画像を集め始めるに至りました。」
――そして、ミツアちゃんのチャレンジが始まり、リリースを出すに至った訳なのですね。
イラスト提供者へはクローズドベータ版のモデルを提供
――イラストを提供していただい方へは、どういった返礼品を考えているのでしょうか。
花井様「既にやっていることとしては、まず学習参加者のみなさんに専用のDiscordサーバーが用意されています。ここでクリエイター同士の情報共有ができるということは、一つの価値になると考えています。」
花井様「あとは、画像提供者様のご協力で成長したAIを、ご協力いただいた方にはクローズドベータという形で提供したいと考えております。現在は『Mitsua Diffusion CC0』というベースのモデルだけを公開していますが、画像提供していただいた方の画像を学習に使い、将来的にステップ2、ステップ3と学習を進めていきます。」
花井様「そして、ステップ3以降のモデルはオープンソースでの公開はしません、と明言させていただいいています。ステップ2は学習するステップであって、これは画像を提供していただいた方の画像も込みで学習するモデルになります。こちらも公開はしません。ただし学習に参加していただいた方を対象に、Discord内でクローズドベータで学習に参加していただけます、という特典ですね。」
――なるほど。つまり権利的にクリーンな形で誕生した画像生成AIを、試しに使用することが可能ということですね。
花井様「そうですね。あくまでテストなので、営業目的の利用は不可という制約がかかります。本取り組みの規約で、画像情報を集める時の目的をミツアちゃんの活動と当社の研究目的と定めております。なので研究目的を超えるような形になってしまうと、その規約を違反することになってしまいます。」
――クローズドベータ版の提供というのは、あくまで研究目的での提供という形なのですね。
花井様「実際に、試すことが可能であるというのが返礼品のひとつです。その先のステップ3が、本当にみんなが使えるようなものになるのかは、まだわからないです。これは何枚くらい画像データが集まるのか、本当に品質が上がるのか、やってみないとわからないというのが非常に多く、もしかしたらできるかもしれない、ということです。」
花井様「出来上がった場合は改めて契約を出します。生成画像の定義も関連して、二次創作が使える場合は版権元と適切な契約をします。もっとも重要だと思っていることが、生成画像が主モデルの学習に使った画像に似ないようにすることです。意図しない盗作のようなものが今の画像生成AI等だと起き得るので、それがないようにしたいという方針として発表しています。これが実現するかどうか、実現時期がいつぐらいになるのかは、現段階では全くわからないんですけれども、目指していきたいと考えております。」
――今はAIを進化させる段階で、意図しない方向に向かう可能性もあるので明言はできないけれども、こういうことを考えていますというスタンスなんですね。
花井様「はい、あと返礼としては、まずウェブサイトへのクレジットの掲載をさせていただきます。また、グッズや限定コンテンツ、NFTなども検討しています。グッズはDiscordに入ってくださっている方の意見を聞きながら決めようかなと思っています。まだ具体的には決まっていませんが、一応ステッカーはあります。ステッカーよりいい物を作ろうと思うと、皆さんと相談したいと思っています。」
――ある種の問題意識みたいなものから生まれているコンテンツなので、発想が近い人が集まってくるのかなと思うと、いろいろとやれそうですね。
花井様「そうですね。やはりイラストレーターの方には、AIに対する立場を反対するにしても、推進するにしても、表明すること自体がリスクなところがどうしてもあるので、そういった空気を少しでも崩していけたらいいかなと思っています。」
AI作品であっても物語性が生まれて、アートとしての価値を持ち得る
――生成した画像をNFT化することで価値が生まれる可能性がある、ということも仰られていますが、これについても教えていただけますでしょうか?
花井様「日本のNFTは、今はアニメっぽいキャラクターのNFTが多いと思います。似たようなパターンでたくさん生成して、その統一的なイメージでブランドの価値をつけるNFTがありますが、僕たちは1個1個に価値が生まれるような、原始的なNFTの方向にしていけたらと思っています。」
花井様「なぜかというと、1つは著作権の問題です。著作権法はとても強力で、その作品の著作権によって、非常に強力な権利が発生する仕組みになっています。今回、CC0でそれを放棄しますので、強力な権利は一切ないんです。ですが、NFTは唯一性が担保されたものです。唯一性があるからこそ価値が発生すると思っています。」
――権利で保護されないからこそ、NFTの唯一的な特性にチャレンジしようとしているのですね。
花井様「例えば、ゴッホの作品などは当然著作権が切れていますけど、高値で取引されているわけです。著作権がなくても本物だという証明があれば、価値を持つということは歴史が証明しています。それは特定の作家というブランドであったりしますが、AIでも同様のことが言えると思います。」
花井様「またAIであっても今回の事例は文脈がつくと思っていて、画像データを提供してくれた人のさまざまな思いや、作成に当たってコメントで参加してくれた人の思いがあると思います。そういった文脈が積み重なってできるものになるため、物語性が発生し、価値を持ち得るんじゃないかと思っています。NFTとして唯一性が担保されているという特徴を使った、シンプルなアート作品としての使い方を想定しています。」
――非常にアートの本質を突いていると思います。様々な人の思いが積み重なって、1個の作品を作っていくとなったときに、そこに物語的な価値を感じる人はいると思います。
人とAIのアート作品の違いを埋め、これまでのAIアートにない価値を生みだす
――最後に読者の皆様にお伝えしたいことがございましたらお願い致します。
花井様「そもそも自分の興味としてあったのが、人とAIのアート作品の違いは何なのか、というところです。その違いは3つあると思っていて、第一に物理的な存在だと思います。これは人だったらキャンバスに描く、そういう物理的な物があります。」
花井様「第二にストーリーです。ストーリーとは、その人が持っているバックグラウンドや、描いた人の個性があるかどうかです。」
花井様「そして最後にプロセスです。これは絵を作っていくプロセスです。画像生成の場合は、最終的な完成品がバーンと出てきますが、人が描く絵は少しずつ作っていくというところが違います。」
花井様「絵藍ミツアの取り組みは、この人とAIのアート作品の違いを埋めるようなことができたら面白いと思って始めました。物理的存在という意味で言うと、これは唯一性と言い換えることができます。そこはNFTで代替が可能です。ストーリーという意味で言うと、様々な人が参加し、そこから生まれていくというストーリーがあります。プロセスも同じで、YouTubeの配信で少しずつ作っていくというプロセスがあります。」
花井様「そういったところで、『絵藍ミツア』は今までのAIアートに全くない価値を生みだすことができるのではないかと思っています。」
――本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。今後のミツアちゃんの「新しい価値」を生むチャレンジを応援しております。
公式ウェブサイト:https://elanmitsua.com
YouTube:https://www.youtube.com/@elanmitsua
Twitter:https://twitter.com/elanmitsua
Mitsua Diffusion CC0 v1.0:https://huggingface.co/Mitsua/
Twitter学習参加申請フォーム:https://forms.gle/Nk3M7UyqSgYAqdpA6