NFTゲームの匠 トークンエコノミクスを極めた「ユーザー資産の守り手」
NFTゲームは従来のゲームと異なり、トークンエコノミクスが重要視されています。今回はNFTゲームの経済圏設計とトークンエコノミクスを専門にするPrecious Analyticsの米元CEOに、経済圏設計の現在と未来について、お話を伺いました。
コンテンツ [表示]
- 1Precious Analytics|米元 広樹 CEO
- 2NFTゲームとトークンエコノミクスの関係
- 3トークンエコノミクスはゲーム作りを変える
- 3.1NFTゲームはユーザーの「資産保護」が肝
- 3.2ゲームを長く遊んでもらいたいという哲学は不変
- 3.3複数の利害関係が絡み合う設計
- 3.4経済圏設計は企画段階から必要
- 3.5トークンエコノミクスの全体と個別
- 4トークンエコノミクスと経済圏設計の匠
- 4.1ゲームパラメータ設定の経験値
- 4.2NFTゲームの経済圏設計の実績
- 5プレアナの経済圏設計を多くの企業様へ
- 5.1ゲーム経済圏設計のコンサルティング
- 5.2ゲーム経済圏チェッカー
- 5.3経済圏設計の「秘伝の書」
- 6NFTとトークンエコノミクスの未来
本記事のポイント
- Web3時代のゲームは「ユーザー資産を毀損しない」ことが重要
- 経済圏設計はユーザー資産を毀損させない仕組み
- 企画の上流工程としての経済圏設計
Precious Analytics|米元 広樹 CEO
―――米元様、お久しぶりでございます。前回のインタビューから半年が経ちましたが、その間で業容が大きく拡大したとお伺いしております。
米元「ありがとうございます。一番大きな変化は、採用と育成がうまくいって、戦力になる社員数が拡大したことです。社員数が拡大するということはいいことだと思うのですが、まだまだこれからだと思います。」
―――戦力になっている社員が増えるということは、案件を受ける量も増やせますし、開発に回せる工数も増えると思うので、今後の御社が楽しみです。
NFTゲームとトークンエコノミクスの関係
トークンエコノミクスはゲーム作りを変える
―――プレアナ様は経済圏やゲーム性の設計に関して、多くのゲームタイトルで企画段階から関与していると思います。また、米元様のnote等でもWeb3時代のゲームは経済圏設計が重要であると発信されていると思います。
―――Web3時代のゲームになぜ「経済圏設計」が重要になってくるのでしょうか?
NFTゲームはユーザーの「資産保護」が肝
米元「最大の理由は、ユーザーの資産を毀損しにくいゲーム性にする必要があるためです。」
米元「前提として、今人気のあるWeb3のゲームはいわゆる『Play to Earn(以下P2E)型』で、ゲームで遊ぶとNFTや暗号資産が手に入り、それを法定通貨に交換することで『ゲームで遊ぶとお金が入ってくる』モデルのゲームが多いです。そのため、ゲームを長くコツコツ遊んでお金を稼ぐっていうのが基本的な遊び方になると思います。」
米元「そのお金、つまりはユーザーの資産が『使い捨て』になると、ユーザーさんからしたら『このゲームは安定して稼げない』ということになります。そうなると、ユーザーさんは離れて行ってしまいます。なので、Web3時代のゲーム、P2E型のゲームを開発するときは、より一層ユーザー資産の毀損に注意を払わなければいけません。」
米元「この『ユーザーの資産を守る』という考え方は、Web2のソーシャルゲームに代表される『Free to Play(以下F2P)』の考え方とは大きく異なります。発想を変えなくてはなりません。ユーザーの資産を大事にしつつ、相互の利害関係を設計し、ユーザーに長く遊んでもらう、という考え方が必要です。」
ゲームを長く遊んでもらいたいという哲学は不変
米元「そもそも、単に長く遊んでもらうための仕組み自体は、F2Pの代名詞だった、ブラウザのソーシャルゲームの頃からありました。そして、それはアプリゲームが主流になった昨今や、Web3でも目指す方向性は同じなのですが、根本の考え方や思想が大きく異なります。」
米元「まず、ブラウザのソーシャルゲームでは、いわゆるガチャ&フュージョンという形で、ガチャを引いて合成して、という形でのデッキ強化と、特攻カードによるイベントドリブンの形式が主流でした。これは、確かにパッケージゲームと比べて長くは遊べる仕組みではありましたが、同時に短期間でユーザーが購入したものの価値が下がるという形での運用だったため、ユーザーにとって負担の大きなシステムでした。」
米元「実は、このシステムを入れるだけで、いわゆるバランス設計は非常に簡単に行うことができたため、バランス設計の重要性は今ほど浸透していませんでした。その結果、当時は最初だけ売れてあとは売上が失速するタイトルが多かったです。」
米元「そのあと、アプリゲームで表現がリッチになると同時に、開発費も高騰し、バランス設計をしっかりと行い無理なく持続的に課金してもらえるような設計にしないと投資が回収できないため、ユーザー資産を毀損しすぎずに、長く遊べるようなバランス設計がされるようになってきました。」
米元「そして、F2PとWeb3との大きな違いは、P2Eという要素が入ってきたため、web3ゲームではユーザー資産の毀損に異次元レベルで注意しないといけない点が挙げられます。」
―――ユーザー資産の毀損に異次元レベルで注意するとは、具体的にはどういうことなのでしょうか?
米元「大きくは2つありまして、1つ目は、先程お話した通り、Web3では、P2Eと呼ばれる、ゲームの活動を通じてトークンを稼ぐといった体験も大きな価値になっています。その原資となるユーザーの資産がどれくらい価値を持つのか、将来的に資産の相場は安定するのか、というのはユーザーにとっては非常に重要なポイントなので、ここの設計の緻密さが売上に直結します。」
米元「最近のF2Pでもユーザーの資産はかなり担保されるようにはなってきましたが、Web3では少しでもその配布量のバランスが崩れると、過剰供給で資産が値下がりしたり、あるいは暴騰して不要なマネーゲームを招く、というようなことが起こりうるので、非常にセンシティブな設計が要求されます。」
―――F2Pでも浸透しつつある価値観が、より重要になってきているということですね
複数の利害関係が絡み合う設計
米元「2つ目は、複数のユーザーの利害関係が絡み合う設計が必要というところです。直近のアプリゲームはギルド機能などはあるものの、昔のブラウザゲームに比べて一人でも長く遊べるような設計にしていることが多いです。一方で、Web3では、長く経済圏を保つために、様々な利害関係が絡み合うような設計が求められます。」
米元「例えばRPGなどのF2Pでは、基本的にはガチャを引いてコンテンツをプレイして強くなっていく、ということで、全員が目指す方向性やほしい素材などは似ている事が多いです。一方で、経済圏の設計というのは、皆が同じ方向を目指して同じものを欲しがるようでは成り立ちません。」
―――需要と供給で考えると、需要が過剰になってしまい、バランスが崩れるからですね。
米元「Web3ゲームでは、その経済圏の設計という考え方が新たに入ってくるため、一人でのプレイ前提の設計とは大きく異なるのです。また、複数の利害関係が絡み合うような設計というのは、そのままご想像の通り、設計自体が複雑で非常に難しいです。ここがF2Pと大きく異なる点です。それだけでも大変なのに、先程のユーザー資産価値の担保の緻密さが求められるということも合わさって、異次元レベルでの緻密な設計が必要となるのです。」
―――こういった経済圏の設計は、やはりF2Pの価値観に慣れていた方が有利なのでしょうか?
米元「これは難しい質問ですね。確かに、F2Pに似ている部分も多いですが、正直、今までとは考え方も大きく変わってくるので、どちらとも言えないです。ただ、先程お話した『ユーザー資産価値の担保』については、最近のF2Pゲームでの設計ができているところが有利だと思います。なぜかというと、2つ目の『相互の利害関係の設計』は、資産価値の担保がしっかりできてこそ初めて設計できるものだからです。」
米元「逆を言うと、ソシャゲでのガチャ&フュージョン、イベント特効方式の資産価値の毀損が激しいモデルの考えで設計しても、うまくは行かないです。なので、個々のユーザーの資産価値担保の設計を飛ばしてWeb3ゲームに取り組むのは、土台がしっかりしていない建物を作るようなものなので、まずはしっかりユーザー個々単位での資産価値の担保をした上での設計が出来るようにするところがスタートラインになります。」
米元「余談ですが、実際にWeb3ゲームを出してチャレンジしてきたところほど、このあたりの構造をご理解されている方が多い印象です。」
―――経済圏の設計とは、ユーザーの資産を毀損しないようなゲーム設計をデザインすることなのですね。
経済圏設計は企画段階から必要
―――そう考えると、経済圏の設計は企画段階から入ることが自然なように思います。
米元「実際おっしゃる通りで、私たちプレアナが経済圏設計をする際には、企画段階から入ることが多いです。実際、そのほうが我々がゲームパブリッシャー様に貢献できることも多いと思います。例えばゲームの企画の上流工程で『コンセプトはこうだから、こういうふうにユーザーさんに回遊してもらって、こういうふうに遊ぶと面白い』といった様々なアイディアを提供できるんです。」
米元「なおかつ、プレアナはタイトル数の経験も豊富なので、Web3のゲームやNFTゲームの開発経験がない会社様でも、弊社に頼っていただければ、全体の経済圏設計から、イベントのような細かい部分の経済まで、一気通貫で企画できます。そして、ちゃんとユーザーさんが遊べるような仕組みを組み立てることができます。」
―――企画段階から入るとなると、クライアント様とも密なコミュニケーションが求められてくるのかなと思います。具体的にはどういったお話の進め方をされるのでしょうか?
米元「例えば、まず『ゲームのコンセプト』が来ると思います。そのゲームで何を実現したいのかですね。そこから、細かいロジックの組み立てに移っていきます。ゲームの仕様や、UXポリシー等ですね。そして最も大事な『ユーザーが相互の利害関係を活用してお金を稼ぎ合う仕組み』や『大会などの賞金が発生する仕組み』を決めていきます。」
米元「とはいえ、パブリッシャーさんがやりたい『遊び』や『ユーザー体験』を損なうようなことはしてはいけないので、基本的にはゲームパブリッシャー様の意見を尊重して、それをベースに個別にカスタマイズしていきます。」
米元「具体的なコミュニケーションと取り方としては、上記のような内容で企画の段階から一緒に入って、当社側の提案をしていきます。いろんな要素を考慮して、経済圏として成り立つかを整理して、どんどん具体的なコンテンツでという所に落とし込んでいきます。」
米元「そこから、経済圏ロジックと数値の話に移っていきます。経済バランス、トークンの流通量、ユーザとユーザーがここでこれだけやり取りして、こういう経済圏が成り立つ。といところまで設計していくのがプレアナの基本的な進め方になります。」
トークンエコノミクスの全体と個別
―――トークンエコノミクスやアナリティクスにも色々な工程や種類があると思うのですが、プレアナ様はどういったところが強いのでしょうか?
米元「一番の強みは、パラメータ設計を一気通貫で見ることができる点ですね。経済圏・トークンエコノミクスにも『個別』と『全体』があります。例えば、よくソーシャルゲームであるような期間限定で行われるイベントや、各種キャラなどの成長強度などは『個別』にあたります。一方で、そもそもゲーム全体の設計については、当然『全体』にあたります」
米元「この両者を一気通貫でデザインできる会社様は中々ありません。だから『全体』の構想が良くても、細かい部分で破綻が出てしまったり、細かい所が得意でも全体を見れていないということもあります。」
―――その点プレアナ様は全体を見る目も個別を見る目も備えているので、そこは強みのように感じます。
トークンエコノミクスと経済圏設計の匠
―――お話を聞いていると、Web2のソーシャルゲームの組み立て方にも応用できると感じました。
米元「はい、おっしゃるとおりで、そもそもが、これらのノウハウはWeb2のソーシャルゲーム時代から継続的に積み上げてきたものだからです。このように、プレアナの『強み』は、何年もの間、シミュレーション技術やデータ分析技術を駆使して何年も経済圏設計、パラメーター設計を続けてきた経験と実績にあります。」
ゲームパラメータ設定の経験値
―――プレアナ様の経済圏設計の経験値は、ソーシャルゲームの時代から積み重ねてきたものなのですね。
米元「はい、我々は何年もひたすらに、ゲーム経済圏のロジック設計やパラメータ設定をやってきていて、他の会社さんと比較してもありえないぐらいめちゃめちゃ緻密な設計ができます。実際に、ゲーム会社様のパラメータを専門にしている人にも驚かれるほど、当社はこだわりをもってやっています。」
米元「本当に、考えられる限りのシミュレーションは徹底してやっています。人力でやるにも限りがあるので、効率化して、AIも使って、人力ではできないレベルまでとにかくシミュレーションしています。」
―――米元様は東京大学の大学院で機械工学とシミュレーションを専攻されていたとお伺いしております。そういった基盤があるからこそのプレアナの仕組みであるとも感じました。
米元「そうですね、AIとシミュレーションを併せて導入している会社様は少ないような印象ですね。とはいえ、ゲーム会社様の中でも、アナリティクスに力を入れていらっしゃる会社様もあるので、同じ答えにたどり着く会社様も多いと思います。ですが、プレアナの方法だと答えにたどり着くにあたっての時間もコストも少ないことが多いです。ここは、当社が誇れるところだと思います。」
NFTゲームの経済圏設計の実績
―――既に多くのWeb3ゲームの規格・開発に携わっているのでしょうか?
米元「ありがたいことに、多くの会社様からお声かけいただいております。既にリリースされているNFTゲームの企画開発にも携わっておりますし、これからリリース予定のタイトルにも多数お声かけいただいております。」
米元「Web3に限らずでしたら、F2Pアプリゲームの開発運用も引き続き関わらせていただいております。最近リリースされました某大手ゲーム会社様の新タイトルでも開発運用に入らせていただいております。」
―――プレアナ様のゲーム経済圏設計運用の力が、多くの企業様の支えになっているということが分かりました。
プレアナの経済圏設計を多くの企業様へ
―――実際にプレアナ様がクライアントにどういったサービスをご提供されているのかについてもお伺いしたいです。
米元「そうですね。既存のお客さまは、共同開発運用という形でご一緒させていただくことが多いです。」
―――プレアナ様の一番の強みでもありますからね。
ゲーム経済圏設計のコンサルティング
米元「共同開発運用では、ゲーム経済圏設計を担当させて頂くのですが、私たちが何かを押し付けるということはしません。大元となるゲーム会社様が、どんなユーザー体験を作りたいかということを重視しています。
米元「ゲームパブリッシャーさんが『こんなことがしたいんです』という粒度が荒めのお話でも、私たちがそれを具体的なゲームサイクルにした上で経済圏に落とし込んだりします。」
米元「あとは、各種ゲームロジック設計からパラメータ設定値ポリシー作成、そして最終的にゲームに反映する設定値そのものも作ることが多いです。」
―――ゲーム経済圏設計面とアナリティクス面で一気通貫して出来る強力なパートナーがいるというのは、ゲームパブリッシャー様としては心強いなと感じました。
ゲーム経済圏チェッカー
米元「あとは、ゲーム経済圏設計のためのツールの開発も進めています。先程お話した共同開発運用まではいかなくとも、プレアナのゲーム経済圏設計のノウハウを使ってをある程度の経済圏設計が出来るようなものを考えています。いわば『経済圏設計シミュレーションの簡易版』ですね。」
―――ロジックが明確なので、プレアナ様のAIも含めた開発力があるからこそのサービスだと感じました。
経済圏設計の「秘伝の書」
米元「あとは、Web3のゲーム経済圏設計を自社で出来るようにしたい、というお客様のために『Web3のゲーム経済圏設計秘伝の書』みたいなのを作っています。」
―――秘伝の書ですか。
米元「はい。ゲーム経済圏設計の考え方をまとめた、いわば書籍のようなイメージですね。『ゲーム経済圏設計はこういう順番でこのステップで、こういうことをする』といった内容や『ゲーム経済圏設計にあたってはこういうことに気をつけなきゃいけない』という、かなり詳細に書いたものになります。」
―――それは素晴らしいですね。経済圏設計について説明されている書籍も少ない状況ですし、需要があると思います。
米元「なので、是非とも気軽にお問い合わせいただきたいと思います。各企業様のニーズやご状況に合わせて、柔軟に対応していけるようにしたいと思っています。」
NFTとトークンエコノミクスの未来
米元「NFTゲーム、いわゆる『Play to Earn』やトークンエコノミクスというテーマが出てくることで、企画からロジック設計、パラメータ設計とデータ分析を総合的に組み合わせた経済圏設計運用の重要性は上がってきていると思います。」
米元「従来のゲームでは、いわゆる『パラメータ設計』は企画分野の下流工程として在りました。ですが、Web3時代のゲームではユーザー資産を毀損しないゲーム設計運用が必須になるため、単なるパラメータ設計だけではなく、企画から一気通貫で経済圏設計と運用を行うことの重要度が上がってます。」
米元「このように、Web3ではそもそもゲーム開発運用の手法が従来と大きく変わるため、経済圏設計・トークンエコノミクスの設計者の関わるタイミングは上流の工程からになっていくのがスタンダードになるでしょう。そういった開発運用フローの重要性については当社からどんどん発信していきたいと考えています。」
―――本日はありがとうございました。
東京大学卒。東京大学院修了。
機械工学を専攻し、シミュレーション関連の研究を行う。
2009年 旭硝子(現AGC)に入社。ガラス溶融炉のシミュレーション業務やAI開発に携わる
2013年 株式会社ディー・エヌ・エーに入社。内製運用タイトルの分析チームリーダー
2015年 株式会社Precious Analytics創業。100を超えるゲーム開発運用に関わった経験をもち、数値遊びの創造を通じて、ゲームをもっと面白く出来るように日々奮闘している