新しいあそびのアイディアを生む 「あそびの未来ファクトリー」 あそびの本質を深く考えられるゲーム・エンタメ人材の入り口に
2019年よりスタートした「あそびの未来ファクトリー」は、参加者が「未来のあそび」について深く考え、プロトタイプを作ることを目的とした学生向けハッカソンです。
この取り組みは、情報コミュニケーション技術などの社会を取り巻く環境の変化によって、従来では考えられなかったような「あそび」が生まれる可能性を秘めています。
本記事では、2024年2月13日〜28日に開催された「あそびの未来ファクトリー2024」の様子を取材させていただき、最優秀賞受賞チームの皆様、東京大学の苗村教授、株式会社マーベラスの石動様にそれぞれお話を伺いました。
「あそびの未来ファクトリー」とは?|未来のあそびを作るハッカソン
2019年よりスタートした「あそびの未来ファクトリー」は、参加者が「未来のあそび」について深く考え、プロトタイプを作ることを目的とした学生向けハッカソンです。
あそびの形式は、デジタルテクノロジーを使うものからボードゲームなどの物理的な道具を使うもの、身体を使うものなど自由です。
一般募集で集まった参加者は、大学もバックグラウンドも興味関心もそれぞれ異なります。そんな彼らがチームを組み、約2週間をかけて「未来のあそび」づくりにチャレンジしました。
最優秀賞「オレンジジュースはどこだ」|匂い×言葉で中身を伝えるあそび
2024年2月13日〜28日に開催された「あそびの未来ファクトリー2024」では、「オレンジジュースはどこだ」というプロダクトが最優秀賞に選ばれました。
このあそびは「嗅覚」という普段あまり使わない感覚を駆使して、言葉で情報を共有しながら、正解の容器を探し出すアナログゲームです。
ゲームの流れは以下の通りです。
取材班もこのゲームを遊ばせていただきましたが、「嗅覚で感じたことを、言語にして相手に伝える」ことの難しさを感じました。
同じ匂いを嗅いでも、表現は人によって異なります。ジャスミンの匂いを「お茶の香り」と表現する人もいれば「芳香剤の匂い」と表現する人もいます。
「匂いを言葉で表現する」という一見単純な行動においても、人によって表現に差があり、明確な攻略法や正解のセオリーが無いため、非常に「あそびの面白さ」を感じました。
「オレンジジュースはどこだ」には、ほかのあそび方として、「匂いを作り、ほかの人に何の匂いか当てさせる」、「お互いに騙しあう対戦型」などもあります。非常に拡張性に富んだ「あそび」です。
この「あそび」はどのように生まれたのか?
最優秀賞を受賞した「推測サファリ」チームにお話を伺いました。
チームだからこそ生まれた新しい発想|最優秀賞受賞チームの皆様
――「推測サファリ」の皆様、最優秀賞の受賞おめでとうございます。
――皆様が「あそびの未来ファクトリー」をきっかけに初めて知り合ったメンバーであるにも関わらず、ここまで完成度の高いものを作り上げたことに驚いております。
――受賞に際して、今のお気持ちを聞かせてください。
長岡様(以下、長岡と表記)「あそびをコミュニケーションツールとして使うこと』や、普段は行わない『香りを色々な声で表現すること』など、作品に込めた意図を審査員の方に理解していただけた点が嬉しかったです。」
ーー非常に面白い「あそび」だと感じました。
土戸様(以下、土戸と表記)「私は『何か賞が取れたら良いな』と期待していた部分もあったので、実際に最優秀賞をいただけて驚いたと同時に、本当に嬉しく思います。」
土戸「私は普段からゲームが好きで幅広いジャンルのものをプレイしているのですが、匂いなどの感覚を使った体感型のゲームは遊んだことがありませんでした。」
土戸「作品の提案や構成をチームで練っていくうちに、感覚を活用したゲームにあそびとしての面白さの可能性を見出すことができました。自分の成長にも繋がったと感じます。」
堀添様(以下、堀添と表記)「ゲームでは普段あまり使わない嗅覚、そしてコミュニケーションの要素を取り入れたら面白いのではないかという点は、企画段階から話し合っていました。しかし、前例のないゲームだったので公開後の反応は未知数でした。」
堀添「そのため、実際に楽しんでプレイをしてくださったり、チーム間で盛り上がっていただいたりしている光景を見ることができ、非常に嬉しく思いました。」
ーー「あそびの未来ファクトリー」での取り組みを通じて学んだことや、ご自身の変化、良かった点などについて伺いたいです。
土戸「異なる専門分野や立場の方々とチームを組んで制作できたことは非常に貴重な経験となりました。」
土戸「私は個人でもTRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム/プレイヤー同士で会話しながら物語を進めていく対話型のアナログゲームジャンル)の制作に取り組んでいるのですが、普段の環境では得られない多様な意見に触れることができ、視野を広げられたと感じています。」
土戸「また、プレゼンテーションではさまざまなソフトを使いこなす必要があり、その過程でスキルアップを実感できたことも大きな収穫でした。」
長岡「最終提出物がビデオということで、動画編集ソフトの操作など、新しい技術を学びながら制作に取り組むことができました。自身の技術向上が実感でき、大変有意義な経験になったと思います。」
長岡「私は元々VRへの興味が強いため、VRゲーム制作の体験をしたこともありました。ただ今回の取り組みでは、『匂い』というアナログな表現に焦点を当てた作品を作りました。普段触れている分野とは異なる作品づくりに挑戦したことは、私にとって非常に新鮮な体験でした。」
長岡「また、あそびのルールやプレゼンの内容を考える上で、『参加者の方に楽しんでいただくためにはどうすれば良いだろうか』と作り手の発想に立ち返ることができた点も良かったです。」
堀添「私は元々コミュニケーションが得意な方ではなかったのですが、『ゲームづくり』を通して人とつながることに大きな魅力を感じました。全く面識のない人と協力して作品を作り上げる経験は非常に貴重なものだったと思います。」
堀添「特に、このゲームの一番重要な要素である『匂い』は、私一人では生み出せなかった発想だと思います。動画編集やプレゼンもメンバーに助けられた部分が大きいので、このチームで良かったです。」
――お時間をいただき、ありがとうございました。改めて、最優秀賞おめでとうございます。
「繋がり」と「人材輩出」を大切にするカンファレンスへ
「あそびの未来ファクトリー」は、2019年から始まり、今年で6回目の開催でした。このカンファレンスを主催したのは『東京大学情報学環オープンスタジオ/中山未来ファクトリー』です。
今回は、同スタジオのメンバーであり、本取り組みで中心的な役割を担われている東京大学の苗村教授と、株式会社マーベラスの石動様に、本取り組みの今後について、お話を伺いました。
石動 太一
株式会社マーベラス
開発部副部長 / エンジニア採用企画室長
2018年12月から参画
https://www.marv.jp/
――苗村教授は、東京大学情報学環オープンスタジオを拠点とするプロジェクト「中山未来ファクトリー」のメンバーとして、長年「あそびの未来ファクトリー」の企画に取り組まれていると存じます。
――「あそびの未来ファクトリー」が目指す方向性と、今後の展開についてお聞かせください。
苗村様(以下、苗村と表記)「当初、本プログラムは東大生のみを対象とした取り組みでしたが、今回は、『大学等に在学中の学生』であれば誰でも参加できるように対象を広げて実施しました。」
苗村「この影響は非常に大きく、多様なバックグラウンドや興味関心を持った方に、予想以上に多くご参加いただけました。最終発表も、非常にレベルの高いアウトプットが出てきていたと感じます。」
石動様(以下、石動と表記)「今年は例年に比べ、学生たちのプロダクトやムービーの質が高いと感じました。また、デジタルなプロダクトが多かった印象を受けています。」
――「東京大学」という枠を超えて実施することで、より良いアウトプットが生まれたということですね。
苗村「そうですね。あとは、このプロジェクトで生まれたつながりを大事にしてほしいです。例えば、このプロジェクトが終わった後にも、同じチームでゲームを作るようになるなど、社会人になったときにも活きる関係性が構築されると良いなと思っています。」
――確かに、2週間密度の濃い時間を過ごしたチームは、もはや『仲間』であると思います。この2週間で培った絆で、この後も活躍していただけるとうれしいですね。
苗村「そうですね。ゲーム業界だけではなく、どの業界、どの分野に進んでも、この『真剣に考える』というプロセス、そして仲間と一緒に何かを作るという経験は非常に重要です。」
苗村「『あそび』の本質について真剣に考えた経験を役立て、社会で活躍できる人材をどんどん輩出していきたいと考えています。」
石動「この取り組みによって参加者の皆さんが得た経験が、今後面白い何かを生み出すきっかけになれば嬉しいです。人とのつながりもぜひ大切にしてほしいです。」
苗村「とはいえ、私自身にも『日本のゲーム・エンタテインメント業界をさらに盛り上げたい』という思いはあります。」
苗村「今後は、よりゲーム業界への人材流入を促進するための仕掛けを作っていきたいと考えています。」
――お時間をいただき、ありがとうございました。
多様な人材による「ものづくり」の可能性
最優秀賞に輝いた「推測サファリ」チームのインタビューの中では「自分一人では生み出せなかった発想を、チームで生み出すことができた」という趣旨のコメントがあり、苗村様と石動様からは「全体的に非常に高いアウトプットが出てきた」とのコメントをいただきました。
「多様な人材が集まることで、より高いアウトプットを出すことができる」ということへの、何よりの証左であると感じます。
今回の取材を通じて、「多様なバックグラウンドを持つ人が集まってゲームを作る」ことへの可能性を感じました。人材育成的な観点から見ても、プロダクト制作の観点から見ても、この「あそびの未来ファクトリー」には大きな可能性があると思います。
今後のお取組みも楽しみですし、ゲーム・エンタメの業界がこのスタジオの「卒業生」の力で、より盛り上がることを願っております。
関連リンク
あそびの未来ファクトリー公式:https://sites.google.com/view/asobi-mirai/
苗村 健
東京大学大学院情報学環 教授
同 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 / 工学部 電子情報工学科 兼担
https://nae-lab.org/