【ゲームプロデューサーを目指す学生がクリエイターにインタビュー】スタッフの安心あっての面白さ、現場の意見を引き出す安心感 齋藤健治#2

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実現が大変なアイデア
まずは、コンシューマ作品に携わる機会が多かった齋藤さんに、タイトル開発中のコミュニケーションからリリース後の振り返りについて伺った。
齋藤さんが携わってきたタイトルとして「メタルギアライジング」が挙げられるが、この作品には敵やフィールド上のオブジェクトを自由に切ることができる「自由切断」というシステムがある。開発ブログでも触れられているが、開発内で苦労のあったシステムらしい。
福山「自由切断のように、工数がかかりそうだなと思うアイデアも企画の中で生まれると思います。実際に開発に進もうという段階で、そうしたアイデアをどうやってプロジェクトやチームに受け入れてもらっているんでしょうか。」
齋藤様(以下、齋藤と表記)「まずは、チームメンバーに、『コンセプト・
齋藤様「自由切断はライジングの見た目だったり、ゲームシステムとして大きな1つの柱、ピラーとして立てているものなので、ゲームには実装しないといけないものになってくるんですよね。」
齋藤「そういう必須仕様に関しては、説明しやすくなります、、、
齋藤「一番分かりやすい例として自由切断だとは思うんですけど、
齋藤「こうした点でも、
齋藤「ディレクターに関しては方向性、コンセプトというゴールはこっちだと指針を示す人であると考えています。『ここのゴールまで行こう。みんなで行こうぜ』って旗を振りながら前に進ませるために必要な人だと思っていますし、それが役目だとも思っています。」
齋藤「そして、それを各セクションにしっかりと分かるようにきちんと話に行くことが実現するための第一歩かなと思います。」
福山「そのアイデアが必要であると理解してもらえれば納得してもらえるということでしょうか。」
齋藤「そうですね。面白さの共有だと思っているんですよね。」
齋藤「自分がこれぐらい面白いと思っているという熱量を相手にどれだけぶつけられて、それを相手がどれだけ面白いと思ってもらえるか。実際にディレクターが作るわけじゃなくて、作るのは現場の人なので、自分の持っている熱量をその人がどれぐらい受け止めてくれるかによって変わると思っています。」
福山「各セクションに話に行くということですが、大きな枠組みとしてプログラマーやデザイナーというところではなく、プログラマーであればこの機能の実装担当の人といった個別の方にも説明しに行っているんでしょうか。」
齋藤「僕はそうしています。多分これはディレクターのスタイルやチームの規模にもよると思います。」
齋藤「元々現場でプログラマーとして働いていたころ、ディレクターから言われてきたことよりも面白く作ってやろうというところからスタートしているんです。なので、僕が今思って動いていることは、僕の1年目にディレクターをしていた神谷さんからの影響もかなり大きいんです。」
齋藤「大神とか、デビルメイクライ、ベヨネッタのディレクターだった神谷さんも、自分が面白いと思っているものをちゃんと説明して『ああ、面白そうだな。じゃあこれを実現するために僕はどう動くか。』って考えてたんですよね。」
齋藤「プログラマーだった時には、さらに面白いものを自分で作ってプレゼンして、それが実装に至るということをしていました。その方向性をみんなにちゃんと伝えるためには、神谷さんのようにすれば現場も動いてくれるだろうという僕の思い込みもあったりします。経験として積み重ねたものがあったので、自分はちゃんと動いて説明することを心がけています。」
齋藤「その方が現場の人としても安心すると思っているんですよ。やっぱり安心があっての面白さ。この人はこういうこと考えてるからっていう認識があるからこそ動いてくれると思っているので、チームビルディングという意味でその関係性も大事にしています。」
福山「安心感があれば『自分はこの方がもっと面白いと思う』とディレクターにアイデアをぶつけやすくなると思うので確かに大切ですね。」
齋藤「なので、僕はリーダーだけと話すんじゃなくて、直接指示をするっていうスタイルです。」
リリース後の振り返り
福山「次は開発中ではなく、発売後についての質問です。買い切り型の作品に多く携わる中で、リリースした作品の振り返りはされていたのでしょうか。していたのであれば、どう振り返って次に活かしていたのでしょうか。」
齋藤「これはなかなか難しいところで、リリースした瞬間はすごくうれしいんですよね。なので、20年前とかは売り場に行って買っている人を見たりしてましたし。」
齋藤「だけどメタルギアライジングに関しては、コナミさんのすごく大きなタイトルで話題性も当時は結構大きかったので、賛否両論な状態になっていたことは理解しています。」
福山「ステルスアクションやストーリーの色が濃いシリーズという認識なので、しっかりアクションゲームになっていることへのリアクションはあっただろうなと思います。」
齋藤「小島監督がプラチナゲームズに依頼してきた意味を含めて、メタルギアのステルスを伸ばしていくよりも、プラチナゲームズの気持ちいいアクションをどう表現してメタルギアに溶け込ませるかを中心に作らなければと。自分自身もシリーズのファンなので、『ファンとしてはステルスもいいけど、仕事としてはこっちだろう』という判断をして作った結果の仕上がりになったと思っています。賛否あるのは仕方ないとリリースした時は思ったりしましたね。」
福山「私はプレイスタイルとしてステルスがとても苦手なタイプなので、そんな人間からすると新規層の獲得に良いタイトルだなと思いました。」
齋藤「福山さんみたいにメタルギアの既存ファンではない人を取り込んだり、プラチナゲームズのファンをメタルギアに持っていく。その逆も然りですけど、良い面としてはそういうのもあったのかなと思っています。」
福山「振り返りとしては、次の作品に活かせるような振り返りになることはあるのでしょうか。」
齋藤「制作の中で、チームとして取り組んできたことを振り返り、次の開発ではこうしようと改善点を見出すことがあります。また、ユーザーからの評価を受けて『ここは絶対に直さなければ』と判断し、具体的な修正に活かすこともありました。」
齋藤「例を挙げると、メタルギアライジングではプレイヤブル時のカメラですね。自分でも詰め切れなかった部分もあるのは感じていますし、ユーザーからの評判も良くなかったんです。見直し改善をして、次のディレクション作品のトランスフォーマー・デバステーションのプレイヤブルカメラは、アクションゲームをプレイするには最適なカメラに仕上がったと自分の中では思ってます。」
福山「プレイ環境がないので、実況されている方の動画を見てきたんですけれども、自由切断でコリジョン周りが難しくなったり視界が悪くなる中でのカメラは難しいだろうなと思って見ていました。ただ、プレイヤーとして見ると......という点もあるなとも思っていました。」
齋藤「そうなんですよね。調整不足というのもありますが、ジレンマの塊なんです。3人称アクションの戦闘カメラは、真後ろからだと敵がプレイヤーに重なり、敵の攻撃やダメージリアクションなどの状態が見づらく戦いづらくなってしまうので、プレイヤーの斜め後方から俯瞰して見せるのがベースになります。」
齋藤「それでもプレイヤーや敵がアクションにより動き回るので細かな調整が必要になってきたりします。壁際とかだと、壁に寄らないように少し敵側に寄せたり、プレイヤー側に寄せるという調整をするべきだったんです。ただ、斬撃モードというモードに入ると一瞬でカメラがプレイヤーの後ろに行くので、カメラが遠すぎると急激な転換で気持ち悪くなってしまいます。」
齋藤「こうしたジレンマの兼ね合いで実際の実装になりました。なので、それをどう解消すべきかを次に取り入れて、という状態でしたね。」
今回のお話をうけて
一人の学生として、インタビューでのお話についての感想や考えをまとめています。お付き合いいただけると幸いです。
意思決定者であるディレクターと実際の作業者である現場の方々の認識が揃っていることは、クオリティや効率など様々な面で良いだろうとは思っていました。その上で、今回のお話の中で一番なるほどと思ったのは安心感についてでした。
基本的に意思決定をする層の人たちは作業者と比べて立場も年齢も高いことが多いと思いますし、その中で自分のアイデアや意見を提案することは簡単ではないと思います。言えるようになる人もいるとは思いますが、結局は個人の素養に依存するので、チーム内からのアイデアを広く拾いたいとなれば、齋藤さんの取り組みは効果がありそうに感じます。
ディレクター側から話に来てくれることで、意見を言える機会が増え、心理的に言いやすくなった意見を届ける場が生まれるというメリットもあると思います。お話の中にあった通り、チームの規模が大きくなるほど難しくなると予想できますが、よほどではない限り試してみる価値のあるスタイルだと思いました。