【ゲームプロデューサーを目指す学生がクリエイターにインタビュー】開発現場の事情とユーザーだからこその意見 齋藤健治#5

それぞれの視点によって異なる意見
福山「ベータテストやアルファテストなどでの感想や指摘される課題と、開発内でのテストプレイで出てくるもの、リリース後に寄せられるものにはどのような違いがあるのでしょうか。」
齋藤様(以下、齋藤と表記)「やっぱり少しずつ方向性が変わってくるものになるなと思っています。というのは、ユーザー層の違いやどれだけ開発に近いか、ゲームが好きかによって違いがあるかもしれません。」
齋藤「開発の中でのテストプレイに関しては、ゲームがある程度分かった上でのテストプレイなので、単純に慣れちゃっているゲームへの意見になっていることが多く、現場的な意見が多くなります。」
齋藤「次にユーザーテストはお金を出して『こういう人を集めてください』って集めてプレイしてもらったりしますけど、そのゲームジャンルのベテラン層や慣れている人を集めることが多いです。中にはそうではない人もいますが、多くはないので、ベテラン層の考える修正案や『ここがやりづらい、この周回をもっとしたい』という意見の方が多くなります。」
齋藤「ベータテストではそのゲームに興味のある人になるので、ユーザーテストとは若干違って、特にプレイヤー寄りの意見が多くなります。操作感や能力への要望などは多かったですね。」
齋藤「そして、リリースをすると一気に層が広がるので、開発時では気付けなかった意見がものすごく多くなったりします。周回効率やロックオンの操作感、すごく細かい所から大きな所まで幅が広く、しかも出来の悪い所に集中してしまうというのが目立っていた感じになります。」
福山「#2で私が触れたカメラのお話のような意見はユーザーテストやベータでの意見に近いレイヤーという感じでしょうか。」
齋藤「開発に近いほどゲームプレイに近いものになってきて、発売に近いほど周回モデルや本当に大きなビジネスモデルの方の意見になることが多いですね。」
福山「そのゲームのジャンルにあまり触れてきていなかったり、そのゲームを追っていない人の意見は、これまで漏れていたというか視点的に見てもらいにくかったところの意見が増えてくると。」
齋藤「お金を出して買っているユーザーさんなので、お金を出した上でこの価値をどう思う?となれば、自分たちの中では出てこない意見はやっぱり出てきます。」
福山「確かにリリースより前のテストはお金を払って遊んでいる訳ではないですからね。その差から生まれる視点の違いは大きいですし、埋めにくそうだなと感じました。」
アップデートの流れ
福山「ユーザーさんからの意見に関連して、特に運営型であれば意見を踏まえてアップデートや調整を入れていると思います。仮にクリティカルな1つの問題に集中していれば優先順位の付け方は簡単だと思いますが、そうでない場合はどのように決められているのでしょうか。」
齋藤「割と段階が存在したりしますけど、僕の経験では運営元と開発があり、開発の中でもプロデューサーをトップとするビジネスレイヤーとゲーム実装レイヤーと呼ばれるところで分かれていました。その段階に応じて、どの部分を修正しようというのを話し合って決まるということが主でした。」
齋藤「まずは現場から修正したい項目、ここは優先したいと上に伝えます。ビジネスレイヤーの中では、グラフ化されたり分けられたユーザーさんの意見を分析しながら、このタイミングでこれを修正しようと決めて、その決定が現場に降りてくるというのが一般的でした。」
齋藤「運営作品となると、現場だけでは決められないということが一番の違いなのかなと思っています。直したいけど直せない部分が山ほどあるっていうところで一番ギャップを感じました。」
齋藤「シングルプレイ作品ではリリース後にパッチを当てることがありますが、そのパッチの当て方に関しては割と現場主導なんですよね。致命的なものがここにあるから、ここをまず直していくというのをビジネスレイヤーを通さずに動き出せます。基本的に合意はしますが。」
福山「ビジネスレイヤー側の修正したい箇所は、収益に影響する箇所の比率が高くなるのではと思いますが、そうなれば現場として直したい箇所と食い違うことは当然あると思います。そうなった際にどのような意見が優先されるのでしょうか。」
齋藤「運営タイトルであれば、収益を主にすることが多い部分ではあります。プレイの中で収益を得るために必要な機能だったり、ここに不満があってこれを解消しないとサイクルが回らなくなります、ということであれば現場の意見も聞いてもらいやすいです。そうではない場合は外れてしまうこともあります。」
齋藤「なので、特定の敵が硬すぎて周回効率がめっちゃ悪いとかになるとすごく修正しやすいんですが、若干カメラが悪くて戦いづらいとか、コンボの繋ぎが悪くて見栄えが悪いといった触り心地やプレイ感に影響するところは優先度は下がってしまいますね。こうした意見は比較的現場の意見だったりします。」
齋藤「あとは、お金をどういうふうに出してもらうかであったり、ゲームの基本的なサイクルの中での良くない箇所ですね。これらは規模感にもよるんですが、時間がかかったり、システムの一部組み換えになってしまう中でバグが発生しないようにという慎重さも影響します。」
齋藤「いつのタイミングで変更・修正箇所をリリースするかについては、変更・修正の難度や重要度、工数を決定して各バージョンリリースタイムラインに乗せていくという事がベースになるかと思いますね。」
齋藤「そして、それをちゃんとユーザーさんに言うかどうかというところにはなってくると思います。」
福山「プロデューサーやディレクターの方が文章や映像で伝えてくださる例も割と見られますが、伝えるかどうかだけでなく伝え方も難しいだろうなと感じてはいます。」
齋藤「自分にも経験はありますが、いろいろなタイトルで、プロデューサーやディレクターがゲーム内容に対して配信をするという事はしてると思います。」
齋藤「遊んでくれて楽しいと思っているユーザーさんに関しては、しっかりとアピールしていかないといけないなと思っていて、そこに寄り添うことも大事だと思いますし、自分たちが考えていることをしっかりと伝えて『未来はこうなっているんだ』っていうことを理解してもらいたい。」
齋藤「これもスタッフの心理的な安全性みたいな話に近いかもしれないですけど、安心してゲームを遊んでもらって、『さらに良くなるから待っててね』っていうふうにしてもらった感じですね。」
福山「私は伝えてもらえる方が嬉しいと思う側だったので、そうした放送を見ていましたが、現場の意図などの納得性をあまり嬉しいと思わないユーザーさんも結構たくさんいるなと感じています。そうした人には発言や説明よりも中身じゃないと響かなそうだなと思っています。」
齋藤「それはそうでしょうね。実際にお金を出して遊んでいるのはユーザーさんなので、『お前らの言ってることがこのゲームに入ってないじゃないか』っていうのはもちろんな意見だと思います。」
齋藤「自分が遊んでても思うことはあるんですけど、いざ実際に開発になると色々とあるんだってなってしまうんです。それでもきっちり説明しないといけないことはあると思っています。」
齋藤「声を上げてくれるユーザーさんはすごい熱意があって、ちゃんとプレイした感想から良い意見と悪い意見が出てくると思っているので、それをしっかりと伝えてくれることはすごく良いこと。エンタメを作っている人に対して感想を言えるということについてはすごく良くなったんだろうなと思っています。」
人のゲームプレイをどう見る?
福山「少し開発とは離れた話かもしれませんが、齋藤さんはゲーム実況などもよく見てらっしゃるなと感じました。そこから派生して、他の人のゲームプレイを見ることで開発に参考となる箇所はあるのか、その際はどう見ているのかについてお聞きしたいです。」
齋藤「確かにゲーム実況はよく見ます。なぜ見てるかは開発者視点と単純にエンタメとして楽しんでいるという2つの視点はやっぱりあります。」
齋藤「単純に楽しんでいるのは置いといて、仕事として見る場合は自分が作ったゲームをプレイしている人も見ますし、他の作品をプレイしているのも見たりします。自分が作ったゲームをプレイしている人を見る場合は、ステージのレベルデザインや敵配置、シナリオで自分が意図した通りの感想を言ってくれるとしめしめって気持ちになるんです。そうなっていないなら、なんでこれはそうならないのかを考えて、この場合はこうしていけば良いのかと考えることはあります。」
福山「最近だと動画ではなくライブ配信という形も多いと思いますが、コメントの反応だったりはどう見られていますか?」
齋藤「深く考えたことはないけど、確かに何かを感じている部分はあったりするなと思います......そうですね、盛り上がりの指標として見ることが割とあるかもしれないです。」
齋藤「どういうコメントなのかという内容の方向性も見ますけど、視聴者数が多い配信者の方だと視聴者が見てほしい部分や指示したいところでコメントの速度が早くなることがあるんですよね。そうしたコメントをする人って、そのゲームをプレイしたことがあったり、他の人の配信で見ていてもう一回この人の配信を見ようという人だと思うので、コメントはそうした指標として感じていたかもしれないです。」
齋藤「自分がディレクションをしたタイトルでは、狙い通りの反応になってくれてたらいいなという状態になりますよね。なので、設計と実際のユーザーさんの感想というか、実証や検証みたいな状態です。」
福山「ユーザーさんからの意見はプレイした後の意見なので、プレイしている状況そのものを見れるという機会自体がロケテストなどでない限り難しそうですね。」
齋藤「ユーザーテストと呼ばれるものに関しても、設計通りかという指標として使うことはありますけど、ちゃんと自分が目の前で見ている状態にはならないんですよね。参加することもできなくはないですが、多い時だと何十人、何百人ってなってしまうので。配信は調べるだけですぐ出てくるし、その人が遊んでいる意見が出てくるのでありがたいと言えばありがたいですね。」
齋藤「自分の話で例えましたけど、他の人の作品に関してもどのような形でユーザーの感情を設計してるんだろうっていうのはとても勉強になるので、そこはいっぱい見てたりしますね。」
今回のお話をうけて
一人のユーザーとしてゲームを遊ぶ中で、「ここもう少し良くして欲しいけど、別の箇所の修正が多いな......」「今それが直るの?」「この問題に気付かないはずないのでは?」という経験は少なからずあり、それらの意思決定や開発的事情を外側から察することは難しいと感じていました。その過程でどんな課題や苦労があるのかについて、少しでもオープンにすることには価値があるのかもと思い、今回伺ってみました。
最近では開発側の事情や意図をユーザーに伝えるケースも多くなってきたと感じていますが、逆に炎上に繋がる場合もあり、それはそれで苦労があるだろうと思います。その原因の一つは開発とユーザーの感覚のギャップなのではと考えています。
今回のお話を通じて、客観的な意見を得られる機会があっても、各ステップに応じて視点も母数も異なっているから、リリース後の反応を完全に想定することは難しいのだと感じました。そして、その意見がお金を払った上で出たものかどうか、この点がリリース後のユーザーとのギャップを埋めづらい一番の要素かもしれません。