ソニー×クランチロールの世界戦略──アニメは“日本の文化”から“ソニーのビジネス”へ

ソニー×クランチロールの世界戦略──アニメは“日本の文化”から“ソニーのビジネス”へ

ソニー×クランチロールの世界戦略──アニメは“日本の文化”から“ソニーのビジネス”へ

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  1. 0.1クランチロール買収は「IP経済圏」構築の布石だった
  2. 0.2ソニーの「クロスメディア戦略」が利益を生む構造に
  3. 0.3グローバル戦略の加速──「Hayate Inc.」の設立と次の一手
  4. 0.4アニメ市場の未来と、ソニーの「寡占」的ポジション
  5. 0.5結論:アニメは“文化資産”から“経済資産”へ──ソニーの眼力と胆力

2021年、ソニーグループは米国のアニメ配信プラットフォーム「クランチロール(Crunchyroll)」を約12億ドルで買収した。買収当時はアニメ市場の拡大が期待されていたとはいえ、「高すぎる投資」「収益回収に時間がかかる」との懐疑的な見方も一部には存在した。

しかし、あれからわずか4年。今やクランチロールはソニーのグローバル戦略の中でも最も成果を上げた事業のひとつとなり、アニメというジャンルがソニーの成長ドライバーであることを疑う声はもはや聞かれない。

この変化をどう評価するべきか。そして、ソニーが目指すアニメビジネスの未来とは何か。ソニー担当のビジネス評論家としての視点から、その本質に迫ってみたい。

クランチロール買収は「IP経済圏」構築の布石だった

ソニーがアニメに本格参入したのは、2005年のアニプレックス完全子会社化が起点だ。その後、「鬼滅の刃」など国民的ヒットIPを手がけたことで、アニメIPの爆発的な収益性を実証し、戦略の軸に据えるようになった。

クランチロール買収は、そうした流れの中で“供給”と“消費”の両輪を押さえる試みだった。制作(アニプレックス)と配信(クランチロール)を一社内で完結できることで、IPの創出から展開、収益回収までを垂直統合的に管理できる。これは映像産業において、ディズニーに次ぐ構造だと言ってよい。

また、クランチロールは単なるストリーミング企業ではない。日本アニメ専門で、世界130カ国以上で事業展開、吹替・字幕を含む多言語対応、さらにはグッズ販売、イベント開催、ゲームとの連携までを網羅するプラットフォームである。アニメというニッチ市場をコアにしながら、周辺領域も一括で取り込む構造は、グローバルでも唯一無二だ。

ソニーの「クロスメディア戦略」が利益を生む構造に

実際に、ソニーの決算を見ると、クランチロールを軸にしたアニメ事業が確実に収益源になっている。2023年度、ソニー・ピクチャーズの営業利益のうち約40%がクランチロールから生み出されており、その規模はゲーム&ネットワークサービスに次ぐ柱となりつつある。

ポイントは、「アニメ作品単体で儲ける」のではなく、IPを多角的に展開して利益を最大化する構造を築いている点だ。

たとえば「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」は、TVアニメから劇場版、音楽CD、ゲーム、キャラクターグッズ、イベント、さらには海外配信まで展開され、1タイトルで数百億円規模の経済圏を形成している。これは“IPの囲い込み”と“展開力”が両立しているからこそ可能なことであり、制作力と配信力を併せ持つソニーだからこそ実現できるビジネスモデルと言える。

グローバル戦略の加速──「Hayate Inc.」の設立と次の一手

2025年3月、ソニーはさらに一歩先へ踏み出した。アニプレックスとクランチロールの共同出資による新会社「Hayate Inc.」の設立である。目的は明確だ。世界を見据えた“グローバル基準のオリジナルアニメIP”を自ら企画・制作し、そのIPを多面的に収益化していく、ということに他ならない。

この動きは、従来の“制作委員会方式”に依存しない体制への移行でもある。従来、日本のアニメ制作は多数の出資社による分業モデルが主流だったが、HayateはIPの主導権をクランチロール側に残したまま、グローバル向けコンテンツを能動的に生み出すことを目指している。

さらに、角川グループとの資本提携などを通じて、出版・原作領域との連携も強化。今後は、原作開発〜アニメ化〜グローバル展開という、より広範なIPバリューチェーンの構築が視野に入ってくる。

アニメ市場の未来と、ソニーの「寡占」的ポジション

世界のアニメ市場は2025年に約377億ドル、2030年には600億ドルを超えると予測されており、特に北米・欧州・東南アジアを中心とした視聴者層の増加が市場を牽引している。背景には、サブカルチャーのボーダレス化とともに、アニメが“単なるエンタメ”から“ライフスタイルの一部”へと浸透してきたことがある。

ここで重要なのは、市場の広がりに対して、供給可能なスタジオ・IPが限られているという現実だ。制作現場の人材不足やコスト高騰など、日本のアニメ産業は供給制約の中にある。その中で、ソニーは出資、制作、配信、収益化までを内製化できる体制を持ち、クランチロールという“販売網”も握っている。つまり、世界的にアニメ人気が高まる中で、その“受け皿”を持つ数少ない企業ということになる。

この体制が維持される限り、ソニーは「アニメ=ソニーIP」の時代を本格的に作り出すことが可能であり、それは今後10年の収益の根幹をなすであろう。

結論:アニメは“文化資産”から“経済資産”へ──ソニーの眼力と胆力

かつてアニメは、日本の“文化資産”として捉えられていた。だが、ソニーはその本質を“経済資産”として再定義した企業である。IPの価値を見極め、タイミングを読み、戦略的に投資と育成を行うこの胆力は、まさに“エンタメを本業とするテック企業”ソニーならではの強さだ。

クランチロール買収は、その視野の広さと持続的戦略性を象徴する一手だった。そして今、世界のアニメファンにとって「Crunchyroll Originals」が新たな“品質保証マーク”になりつつあることこそが、静かなる成功の証と言えるだろう。

ソニーが築くアニメの経済圏。その全貌はまだ始まったばかりだが、明らかに“文化産業の覇者”としての地位を固めつつある。

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