【特集】発売2ヶ月、Nintendo Switch 2が創る新世界――750万台突破の熱狂と、供給網・転売問題の根深い影

2025年8月4日、東京。任天堂が次世代のエンターテインメントとして世に送り出した「Nintendo Switch 2」が、6月5日の発売から2ヶ月を迎えた。この60日間で、世界は新たなゲーム機の登場に熱狂し、その驚異的な販売ペースはアナリストたちの予測を次々と覆している。任天堂が発表した初期データによれば、全世界での累計販売台数は7月下旬時点で750万台に迫る勢いを見せ、同社のゲーム機史上最速の立ち上がりを記録した。

しかし、この輝かしい成功は、深刻な供給不足と、それに寄生する転売という根深い問題の影と隣り合わせにある。本稿では、発売から2ヶ月が経過したSwitch 2経済圏の現状を、販売データ、ソフトウェアの動向、世界各国の状況、そして実際にハードを手にしたユーザーの声から多角的に解き明かしていく。

任天堂が7月末に発表した第1四半期決算の補足資料は、市場に衝撃を与えた。発売から約7週間で、全世界におけるSwitch 2の販売台数が600万台を突破。8月に入り、その勢いは衰えることなく750万台という驚異的な数字に達したと見られている。内訳を見ると、需要の巨大さを物語るように、北米市場が約280万台と牽引し、欧州が約200万台、そして品薄が最も深刻とされる日本国内でも約150万台が出荷された。

この数字は、単にハードウェアが売れているという事実だけを意味しない。「Switch 2経済圏」とも呼べる新たなエコシステムが、猛烈なスピードで形成されていることを示している。

その最たる例が、周辺機器の売れ行きだ。特に、操作性の向上で評価の高い「Nintendo Switch 2 Proコントローラー」は、本体との同時購入率が非常に高く、一部の店舗では本体同様に入手困難な状況が続く。公式キャリングケースやサードパーティ製の保護フィルムなども軒並み好調で、周辺機器市場全体が大きな活況を呈している。

さらに注目すべきは、ニンテンドーeショップにおけるデジタル販売の隆盛だ。業界アナリストによると、Switch 2ユーザーのソフトウェア購入におけるデジタル比率は、初代Switchの同期間と比較して15%以上も高いと推計されている。これは、発売当初からパッケージ版が品薄であることに加え、ストレージ容量が増加したSwitch 2では、より手軽にダウンロード版を購入するユーザーが増えていることを示唆している。このデジタルシフトは、任天堂の収益構造に大きなプラスの影響を与えるだけでなく、小規模なインディー開発者にとっても、巨大な市場へのアクセスを容易にするという恩恵をもたらしている。

発売前、一部では「ローンチに『ゼルダの伝説』級の超大作がない」という「キラータイトル不在論」も囁かれていた。しかし、蓋を開けてみれば、その懸念は杞憂に終わった。

最大の功労者は、本体とセット販売もされた『マリオカート ワールド』だ。全世界での累計販売本数は560万本を超え、本体購入者の実に7割以上が手にしている計算になる。オープンワールド風のコースを自由に駆け巡るという新たなゲーム性は、シリーズファンだけでなく、新規ユーザーからも絶大な支持を獲得。SNSには連日、ユニークなショートカットや美しい景観を撮影した動画が投稿され、ゲームの口コミ拡散に大きく貢献している。

そして、Switch 2の成功を語る上で欠かせないのが、サードパーティの躍進だ。特に、カプコンが発売した完全新作のアクションRPG『明末：ウツロノハネ』は、全世界で200万本に迫る大ヒットを記録。美麗なグラフィックとハードな世界観が、これまで任天堂ハードに馴染みの薄かったコアゲーマー層を惹きつけ、「Switch 2でこんなゲームが遊べるのか」という驚きを提供した。この成功は、性能向上によって大手サードパーティが本腰を入れて開発に取り組めるようになったことの何よりの証明である。

ダウンロードランキングも活況だ。上位には『マリオカート ワールド』が君臨しつつも、1000円以下で購入できるインディーゲームや、初代Switchの名作をアップグレードした移植版などが多数ランクインし、ソフトウェアラインナップの多様性と層の厚さを示している。Switch 2は、大作から小品まで、あらゆるゲームが共存できる豊かな土壌を、わずか2ヶ月で築き上げたのだ。

Switch 2の熱狂は、国境を越えて世界中を巻き込んでいる。

北米では、記録的な販売台数が示す通り、社会現象に近い盛り上がりを見せている。大手量販店Best BuyやGameStopには、不定期に入荷する在庫を求めて情報が錯綜。大手メディアは「PS5発売時を彷彿とさせる熱狂だ」と報じ、任天堂ブランドの根強い人気を再認識させている。

欧州でも状況は同様だ。特にイギリス、フランス、ドイツでは需要が供給を大幅に上回り続けており、AmazonなどのECサイトでは、招待販売制にもかかわらず、リクエストが数百万件単位で殺到しているという。欧州のユーザーからは、特に携帯モードでのバッテリー持続時間や、画質が向上した有機ELディスプレイに対する好意的な評価が多く聞かれる。

しかし、この世界的な熱狂は、国境を越える共通の課題も浮き彫りにした。それは「転売問題」である。日本のフリマアプリ「メルカリ」で定価の1.5倍から2倍近い価格で取引されているのと同様に、米国の「eBay」や欧州の各種オークションサイトでも、高額転売が横行。任天堂は各国のプラットフォーマーと連携し、不正出品の削除に努めているが、いたちごっこが続いているのが現状だ。この問題は、純粋にゲームを楽しみたいと願う世界中のファンのフラストレーションを高める最大の要因となっている。

では、実際にSwitch 2を手にしたユーザーは、どのような感想を抱いているのだろうか。SNSや掲示板には、賞賛と僅かな不安が入り混じった、生々しい声が溢れている。

【賞賛の声】

「初代Switchから乗り換えたが、ロード時間の短縮は革命的。特にオープンワールド系のゲームでは没入感が全く違う。有機ELディスプレイの発色も素晴らしく、携帯モードで遊ぶ時間が格段に増えた」（東京都・30代男性）

「『明末：ウツロ-』を遊ぶために買ったが、大正解。これまでPCやPS5でしか味わえなかったような高品質なグラフィックのゲームを、寝る前に布団の中で遊べるのは最高の体験だ」（米国カリフォルニア州・20代女性）

【不安・不満の声】

「発売日から毎週欠かさず抽選に応募しているが、全く当たる気配がない。いつになったら普通に買えるようになるのか。転売屋が高値で売っているのを見ると本当に腹が立つ」（大阪府・40代男性）

「Joy-Con 2の操作感は向上しているが、ネットで早くも『ドリフト現象』を疑う声が出ているのが不安。初代の悪夢が再来しないことを祈るばかり。任天堂にはしっかりとした保証対応を求めたい」（英国ロンドン・30代男性）

「高性能なゲームを遊ぶと、本体がかなり熱を持ち、バッテリーの減りも早い。携帯モードをメインに考えている人は、モバイルバッテリーが必須になるかもしれない」（神奈川県・20代学生）

これらの声は、Switch 2が提供する「体験の質」そのものには高い満足度が示されている一方で、入手性の悪さと、将来的なハードウェアの信頼性に対する不安が根強く存在することを示している。

発売からわずか2ヶ月。Nintendo Switch 2は、任天堂の歴史、そしてゲームの歴史に残るであろう、壮大なロケットスタートを切った。その推進力は、ハードの魅力、強力なソフトウェア、そして何よりも任天堂というブランドへの揺るぎない信頼に他ならない。

しかし、その軌道の先には、供給網の安定化と転売問題の鎮静化という、避けては通れない重力圏が待ち構えている。現在の熱狂を、持続的な成長へと繋げる「第二のロケットブースター」に点火できるか。そのすべては、一年で最も需要が高まる「年末商戦」をどう乗り切るかにかかっている。

生産体制の強化はどこまで進むのか。ホリデーシーズンを彩る、新たなキラータイトルは用意されているのか。任天堂の真価が問われる、次なる60日が始まろうとしている。