広告運用やSEOの「専門家」では到達できない領域へ - デジタルマーケティングPMの全仕事 Part-1-

複雑化・分断化するデジタルマーケティング領域で、戦略・実行・改善を一気通貫で統括する「プロジェクトマネージャー(PM)」の真の役割に迫る。広告運用やSEOの専門家では解決できない、全体最適と成果最大化のリアルを2部構成で徹底解説。【Part1】
コンテンツ [表示]
デジタルマーケティングの世界は、かつてないほど専門化・細分化が進んでいる。
SEOの専門家、SNS広告の運用者、コンテンツマーケター、MAのシナリオ設計者。
それぞれの領域で高い専門性を持つプロフェッショナルが活躍する一方で、多くの企業が共通の課題に直面している。
それは、「各施策がサイロ化し、連携なくバラバラに動いている」という問題だ。
結果として、多大な予算とリソースを投下しているにもかかわらず、部分最適の罠に陥り、事業全体の成果(KGI)に結びつかないケースが後を絶たない。
この複雑化した戦場で、個々の戦術(施策)を統合し、一つの目的、すなわち「事業の成功」へと導くオーケストラの指揮者。
それこそが、「デジタルマーケティング・プロジェクトマネージャー(PM)」に他ならない。
彼らは単一施策の専門家ではない。戦略、テクノロジー、クリエイティブ、データを横断的に理解し、事業目標達成という一点にコミットする「司令塔」だ。
本稿では、その具体的かつ多岐にわたる仕事内容を、プロジェクトのフェーズに沿って詳解する。
第1章:戦略家としてのPM - 勝利への羅針盤を描く設計フェーズ -
効果的なデジタルマーケティングは、緻密な戦略設計から始まる。
PMはここで、事業責任者のパートナーとして、勝利への道筋そのものを描き出す。
仕事1:事業目標の翻訳とKGI/KPIツリーの構築
すべては、クライアントや事業責任者が抱く「売上を前年比150%にしたい」「新規顧客のリードを倍増させたい」といったビジネスゴールを深く理解することから始まる。
PMの最初の重要な仕事は、この漠然とした目標を、デジタルマーケティングで計測可能かつ達成可能な指標に「翻訳」することだ。
具体的には、事業の最終目標であるKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標、例:売上、利益、LTV)を頂点に置き、その達成要因となるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)をロジックツリーの形で分解していく。
例えば、「売上」というKGIは「客数 × 客単価」に分解され、「客数」はさらに「セッション数 × CVR(コンバージョン率)」へと分解される。
このようにして、「どの数値を動かせば、最終的にKGIが達成されるのか」という勝利の方程式を可視化する。このKPIツリーが、プロジェクト全体の羅針盤となる。
仕事2:ペルソナとカスタマージャーニーマップの精密な設計
次にPMが取り組むのは、「誰に、何を、いつ、どこで伝えるか?」というコミュニケーションの設計図作りだ。
Google Analyticsなどのデータ分析、顧客アンケート、デプスインタビューなどを通じて、ターゲット顧客の解像度を極限まで高めた「ペルソナ」を設計する。
さらに、そのペルソナが製品やサービスを「認知」し、「興味・関心」を持ち、「比較・検討」を経て「購入」し、最終的に「ファン(ロイヤル顧客)」になるまでの一連の体験を時系列で可視化した「カスタマージャーニーマップ」を作成する。
このマップ上の各接点(タッチポイント)で、顧客がどのような情報を求め、どのような感情を抱くかを想定し、最適なメッセージとチャネルを定義していく。この設計図の精度が、後の施策の効果を大きく左右する。
仕事3:チャネル戦略と予算の最適配分(アロケーション)
設計したカスタマージャーニーマップに基づき、限られた予算とリソースをどのチャネルに、どれだけ配分するかを決定する。
検索連動型広告、SNS広告、インフルエンサーマーケティング、SEO、オウンドメディアのコンテンツ制作、MAを活用したナーチャリングなど、選択肢は無数にある。
PMは、各チャネルの特性と役割(認知獲得向け、検討層へのアプローチ向けなど)を熟知し、最も投資対効果(ROI)が高まるポートフォリオを組む。
これは、PMの経験と分析能力が最も問われる、腕の見せ所である。