企業のステーブルコイン利用における注意点

企業がステーブルコインを活用する際の注意点を解説。ウォレット導入コストやセキュリティ、ガス代の変動、税務処理、バランスシート上の扱いまで、実務に直結する論点を整理。安全かつ効率的な導入を検討するビジネスパーソンに必読の内容です。
1. ウォレットのコストとセキュリティ
企業がステーブルコインを保有・管理するには、ウォレットの導入が必須です。
しかし、個人向けの無料ウォレットとは異なり、企業向けには高度なセキュリティと管理機能が求められます。
- カストディアンウォレットのコスト: 多くの企業は、秘密鍵の紛失リスクを避けるために、専門のカストディアンウォレットサービスを利用します。これらのサービスは、厳重なセキュリティ管理やマルチシグ(複数人の署名)機能を提供しますが、利用料や取引手数料が発生します。これらは、導入や運用に際してコストとなります。
- コールドウォレットの導入コスト: 自己管理する場合、オフラインで秘密鍵を保管するコールドウォレット(ハードウェアウォレットなど)を導入することが一般的です。これには初期費用がかかるほか、物理的な保管場所や管理体制を整えるためのコストも発生します。
- セキュリティ対策のコスト: 内部の不正行為や外部からのハッキングを防ぐために、セキュリティ専門家による監査やシステムの定期的な更新が必要です。これらの専門サービスには高額な費用がかかる場合があります。
2. ガス代(手数料)の変動と管理
ステーブルコインの送金やDeFiでの利用には、ブロックチェーンのネットワーク手数料であるガス代が発生します。
- ガス代の変動性: ガス代は、ネットワークの混雑状況によって大きく変動します。特にイーサリアムネットワークでは、取引が集中する時間帯にガス代が急騰することがあります。企業が計画的な送金を行う場合、このコスト変動を予測し、予算に組み込む必要があります。
- 利用するネットワークの選択: 企業は、手数料が安価なブロックチェーン(例:Polygon、Solana、Avalancheなど)上のステーブルコインを利用することで、ガス代を抑えることができます。しかし、これにより利用できるプロトコルや取引相手が限られる可能性があるため、ビジネスニーズとのバランスを考慮する必要があります。
3. 税務上の扱いと税金
企業がステーブルコインを保有、投資、あるいは送金で利用する場合、税務上の取り扱いは非常に複雑です。
- 売買益(キャピタルゲイン): 日本においては、企業がステーブルコインを売却して得た利益は、原則として法人税の課税対象となります。利益計算は、取得価額と売却価額の差額で行います。
- 評価益・評価損: 多くの暗号資産は期末に時価評価が必要ですが、ステーブルコインは日本円に連動しているため、期末評価は不要です。これにより、ビットコインやイーサリアムのような評価損益による課税リスクを回避できるのが大きなメリットです。
- 消費税: ステーブルコインは決済手段として利用されますが、法律上の位置づけはまだ明確ではありません。海外取引では非課税となるケースが多いですが、国内での利用においては今後の法改正や税務当局の解釈に注意が必要です。
- ウォレットの税務管理: 企業は、すべての取引履歴を正確に記録し、税務当局からの監査に備える必要があります。これには、専用の会計ソフトウェアや税理士のサポートが不可欠です。
4. バランスシート記載の注意点
企業がステーブルコインを保有する場合、日本の会計基準では、通常、「暗号資産」として資産の部に計上されます。
- 取得価額の決定: ステーブルコインを購入した際のコスト(購入代金+手数料)を取得価額として記録します。
- 期末評価: JPYCなどの日本円ステーブルコインは、時価と帳簿価額がほぼ同じであるため、会計上の評価損益は生じにくいです。ただし、ペッグ(連動)が外れた場合は、その差額を認識し、評価損益として計上する可能性があります。
- 貸借対照表(バランスシート)上の分類: 企業がステーブルコインを短期的な決済目的で保有する場合は「流動資産」として、長期的な投資目的で保有する場合は「固定資産」として記載することが考えられます。その分類は、企業の経営判断と目的によって異なります。
結論
企業がステーブルコインを事業に組み込むことは、送金コストの削減や新たな金融サービスへのアクセスを可能にする一方で、ウォレットやガス代のコスト、複雑な税務処理、そしてバランスシート上の適切な記載など、多岐にわたる注意が必要です。
これらの課題を克服するためには、専門家(会計士、税理士、弁護士など)の助言を仰ぎ、強固な社内体制を構築することが不可欠です。
単に便利さだけでなく、コンプライアンスとセキュリティを最優先に考えた上で、導入を検討する必要があります。