【Web3インタビュー】『メタバース超入門』の作者が語るメタバースの未来 (株式会社Synamon 武井様)
2021年に突如脚光を浴びることになった単語、メタバース。今や様々な業界、様々な企業がメタバースに参入を発表し、その範囲は非常に広範囲に及んでおります。そんな中、2022年に出版された『メタバース超入門』は、様々な業界のメタバースのユースケースを網羅的に説明した、入門者向けの1冊です。今回は、同書の著者であり、株式会社SynamonのCOOでもある武井さんに、VRとメタバースの可能性についてお話を伺いました。
株式会社Synamon 武井 勇樹 COO
2016年 初めてVRゴーグルをかぶった時の衝撃
ーーー武井様のご経歴を拝見しましたが、シリコンバレーからSynamonに転職をされたとお伺いしております。
ーーーそもそも、メタバースやVRに可能性を感じたのは、どういったきっかけなのでしょうか?
武井「そうですね。私はもともとアニメとかをよく見るタイプだったのですが、例えば『ソードアート・オンライン』のようなVRを主体とした世界がそもそも結構好きでした。「こういった世界が現実になったら面白いな」と。」
武井「あとは、シリコンバレーに行く前にも、日本のITベンチャーにいたのですが、その時に新規事業調査の一環で、VRについて調べていたことがありました。」
ーーー職業人生の中では、そこでVRに出会ったのですね。
武井「そうですね。初めてVRゴーグルをかぶった時に「これは凄いな」と感動した経験をしまして。」
ーーー具体的には、どういったところにVRの魅力を感じたのでしょうか?
武井「初めて私が被ったのは、いわゆる段ボールのゴーグルにスマートフォンを入れて体験するVRゴーグルでした。それでもやっぱり、没入感や臨場感があって、「これはすごいな」と思いました。」
武井「あとは、今でもあるんですけれども、当時発売されたばかりのハイエンド向けVR『HTC Vive』で体験できる『The Blu』という、海に潜ってクジラと会うみたいなコンテンツがありまして。」
武井「海の中でクジラと会うことって、現実でできることは中々ない。」
武井「こういう非現実的な体験ができる、可能性のあるコンテンツだと感じました。
武井「そういったこともあり、VRという技術はすごく面白そうだなと思いました。ちょうど2016年。業界にとっては「VR元年」と呼ばれた年でもあります。」
ーーーなるほど、今まで容易にはできなかったことも、VRの技術で体験のハードルを下げることができるのですね。
ー--比較的早い段階から、VRの可能性にお気づきだったんですね。
武井「あとは、それだけじゃなくて、シリコンバレーにいたときも、海外の友達に「お前らVR知ってる?これ本当にすごいよ。」といった謎の(布教)活動をしておりまして。笑」
ー--VR技術のインフルエンサーだったんですね笑
著書『メタバース超入門』の誕生
ーーーそんな武井さんが、突如「本を出す」ことになったのは、どういった経緯なのでしょうか?
武井「そうですね。発端としては、VRやメタバースのビジネスモデルのような記事を『note』などのSNSにまとめて発信していたことです。それを(出版社の)編集の方の目にとめていただきまして。「本を出してみませんか?」というお誘いを、なんとTwitterのDMからいただいたのがきっかけです。」
ーーーSNSでお声がかかるのは、なんというか、時代を感じますね。
武井「そうですね。(出版の話をいただいた2021年の年末頃は)メタバース関連の本ってあまりなかったので。それに、(Synamonという)会社的にも、これからメタバース領域に本格的にチャレンジしていこうとしていたんです。ここでメタバースの本を出版することは、メタバースに対する自分自身の考えを整理する上でもプラスになるのではないかと思いました。」
武井「……あとは、私自身、結構本を読むタイプの人間だったので、いつかは本を出してみたいなという個人的な想いもありました笑」
ー--色々お考えになったうえで、出版に至ったのですね!
武井「メタバースが言葉として広まりだした2021年の末頃って、なんというか、メタバースという言葉が先行していて、ある種今までVRとかARとかXRって呼ばれたものと、今Web3と呼ばれているクリプトあたりが混同して語られていることが多かったです。」
ー--丁度『Decentraland』のようなNFTとメタバースを掛け合わせたサービスが盛り上がっていた時期でもありましたよね。
武井「それに、色々な人が「私たちのやっていることはメタバースです!」と発信していることもあり、一般の人の目線だと、いろんなものがメタバースに見えてきて「結局メタバースって何?!」っていう、混乱が起こった時期でもありました。」
ーーーつまり、メタバースについての認識が人や企業のポジションに応じてばらばらだった、ということですね。
武井「そういう背景もあって、何かもう少しメタバースとは何なのかいうことを、客観的に伝えられるようなものを発信する。というコンセプトで執筆しました。」
以前執筆した記事でも、武井様の著書の書評を書かせていただきました。
その際にもお伝えしましたが、この本の最大の魅力は「網羅的である」ことです。
様々な業界、様々な人、様々なパターン……
多くの事例を網羅的に記述することで、客観性のある内容になっております。
また、ビジネスサイドの目線で執筆されている点も魅力です。
武井様はITベンチャーからシリコンバレーまで経験し、XR事業に注力していたSynamonで現在は活躍されております。
このご経験をもとに執筆されているため、他のメタバースの本よりも具体的な内容に仕上がっていると、いち読者としては思いました。
60分でわかる!メタバース超入門
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NFTを活用したメタバースの可能性
ーーーSynamon様は「NFTも活用可能なメタバース」を構築するプラットフォームを開発されていると思います。
ーーーメタバース空間上でNFTやクリプトを導入することについては色々な意見があると思いますが、NFTやクリプトの要素をメタバース上に組み込むことによるメリットは、例えばどういった点にあるのでしょうか?
武井「そうですね、そこ自体はまさに色んな論調があると思います。まず前提として、私たちは思想的にはいわゆるオープンメタバースといわれるような、どこかのプラットフォームに依存しすぎないメタバースの姿を思想としては持っていまして……もちろん実現の難易度は高いのは承知してはおりますが。」
武井「ですが、それでもオープンメタバースを将来的に目指す理由としては、メタバースが進むとプラットフォーマーは今以上に多くの個人情報を手に入れることができるようになるからです。」
武井「例えばですが、(メタバース上で)そこの誰と会ったか、どんな会話をしたかですとか、自分の趣味嗜好が何なのかとか、何ならXRとか入れてると、目線のデータなどの生体データも、将来的にわかるようになってくる。その人がどういう人なのか、ということが文字通り丸わかりになってしまう。」
ー-ー目線の動きとか、心臓の鼓動とか、色んな生体データが取れるようになる未来があるかもしれないんですね……
武井「だからこそ、どこか一つのプラットフォーマーが情報を握るというのは、少し怖いなと思います。」
ー--……今のお話を聞くと、確かにちょっと怖いなと思えてきてしまいます笑
武井「あとは、良く言われる話ですが、メタバース空間で自分がずっと集めてきた靴だったり、服だったりが、突然メタバースのプラットフォーム側が「サービス終了します」って言った瞬間にいきなり使えなくなる、といった弊害もあります。こうした観点を考えると、プラットフォーム間の互換性があるオープンメタバースは、将来的には大きなポテンシャルを秘めていると思います。」
ーーーなるほど。オープンメタバースを目指すにあたって、NFTやクリプトが関係してくるのですか?
武井「(NFTやクリプトの持つ)相互互換性であったりだとか、特定のプラットフォームに依存しすぎない仕組みとしてのブロックチェーンとオープンメタバースは、どこかで交わってくるタイミングがあるだろうと思っています。」
武井「もちろん、現時点でのメタバースにブロックチェーンが必須かといえば、必須ではありません。また、オープンメタバースの実現には、プラットフォーム間でデータ形式の共通プロトコルが必要になるなど、実現していくうえでのハードルも高いです。ですが、組み合わさっていくことで将来的には面白くなる場面が出てくるんじゃないかな、と思います。」
ーーーメタバース視点では、NFTやクリプト、ブロックチェーンを使うことは必須ではないのですね。
非代替性トークン(NFT)はイーサリアムを使用して構築されたすべてのものと互換性がある。
あるイベントの非代替性トークン(NFT)チケットは、あらゆるイーサリアム市場で取引でき、全く異なる NFT と交換することができる。 チケットとアートの交換も可。
「メタバースを使う」という言葉がなくなる時
ーーー最後にふわっとした質問で恐縮ですが、武井様はどういったメタバースの姿を目指していらっしゃいますか?
武井「そうですね。まず前提として、私たちはメタバースのことを「三次元のインターネット」だという話をさせていただいています。ですが、先ほど申し上げた通り、メタバースの概念自体が非常に広いので、「何がメタバースなのか」については、人それぞれでいいと思っているんです。」
武井「これ例えばインターネットも一緒で「インターネットって何ですか?」って聞いたときに。人によって全員回答は多分違うと思います。」
ーーー普段インターネットのどの部分に触れているかで変わってきそうですね。
武井「おばあちゃんにインターネットって何ですかって言うと、孫と連絡を取る「LINE」っていうやつでしょという人もいると思います。それこそ昔ながらの「ヤフー」がインターネットだと答える人もいる。逆に、若者に同じ質問をすると「Instagramでしょ」っていう人もいれば、場合によっては「フォートナイトでしょ」っていう人もいる。インターネットのどの部分を一番インターネットとして見てるかっていう違いだけだと思うんです。」
武井「さらに言うと、インターネットのサービスを使っているときに「インターネットを使っている」という意識はないと思うんですよね。例えば「YouTubeを見てる」時に、「俺は今インターネットを使っている」と思いながら動画を見ている人っていないと思うんです。」
ーーー確かにそうですね笑
武井「メタバースもそんな存在にしていきたいなと。メタバースがあるのが当たり前の世界。世の人が「メタバースやりましょう」って言ってるうちは、本当にまだ道半ばなのかなと。「メタバース」って言葉が消えたときには、多分メタバースが普及したタイミングだと思うんで、そういう世界を目指していきたいなと思っておりますし、そういう世界を作っていくために、どんどんメタバースの新しい魅力だったりとか面白い魅力っていうのをちゃんと引き出した上で、一般の人たちが使っていけるサービスにしていきたいなと思います。」
ーーー本日はありがとうございました。
一時間にわたる取材の中で、メタバースという新しい技術。そしてメタバースにより描き出される「三次元のインターネット」の可能性を信じ、創作の目線からも、ビジネスの目線からも、深くメタバースを理解し、そして愛されている方だと感じました。
そんな方だからこそ書けたメタバースの入り口である『メタバース超入門』は、これからメタバースを理解しようとする方にとっては、必ずお勧めしたい一冊です。
是非とも皆様も、お手に取ってみてください!
新卒でITベンチャーのSpeeeに入社。
その後、渡米してUC Berkeley Extension を修了。
2018年よりSynamonにBizDevとして参画し、2021年8月にCOO就任。
現在は現在はビジネスサイドの統括を担当。
2022年4月に技術評論社より『メタバース超入門』を出版。