MMORPGの衝撃からメタバースへ monoAI technology株式会社の取り組みと挑戦
monoAI technology株式会社(モノアイテクノロジー)は、メタバースプラットフォーム「XR CLOUD」を中心に展開を行っています。
今回はこのmonoAI technology株式会社のメタバース事業の内容や今後の展望について、代表取締役社長 本城 嘉太郎様にインタビューを行いました。
MMORPGの体験から事業へ
――本日は宜しくお願いします。
――早速ではございますが、貴社の事業の概要や経緯、方向性についてお聞かせいただいても宜しいでしょうか。
本城 嘉太郎様(以下本城)「monoAI technologyは、私が子供の頃に初めて出会ったMMORPGに感銘を受けたことがきっかけとなり立ち上げた会社です。バーチャル空間で会社に行ったり仲間と過ごしたりするなど、『バーチャル空間で生活すること』自体の可能性に気づき、そういった事業をやりたいと考えました。」
本城「創業時は『メタバース』という言葉はありませんでしたが、オンライン上でのコミュニケーションという部分をテーマとして事業をスタートしました。元々は、オンラインゲーム専業のゲーム制作会社として、スマートフォンのタイトルやブラウザのゲームを作っていました。」
本城「今から10年ほど前には、『モノビットエンジン』というゲーム用のリアルタイム通信モジュールの事業も始めました。」
本城「そしてVR元年と呼ばれる2016年、初めてVRのデバイスを体験しました。このデバイスの没入感は高く、これは仮想世界に入り込むのには非常に良い媒体だ、と感じました。」
本城「VRはゲーム以外の産業でも汎用性が高いのではないかと思い、ゲーム以外のコンテンツも作ってその可能性を追求するため、VRスタジオに近い制作スタジオ事業を始めました。」
本城「2016年当時、VRは非常に大きく注目されていましたので、秋葉原で1週間イベントを行った際は、1000人ほど集客ができました。そこには色々なゲーム業界以外のお客様も多く来られて、それがきっかけでゲーム業界以外の企業様とソリューションの開発でご一緒することになりました。」
本城「同年の東京ゲームショウでKDDIさんが出展した、VR上での多人数コミュニケーションができるコンテンツを制作しました。これは、『東京ゲームショウ初のマルチプレイVRコンテンツ』となりました。」
本城「その後も、工場のバーチャル化を行うことで、完成前の工場を確認できるシステムを制作したり、ARグラス向けの(ソフトウェア開発キット)にモノビットエンジンを入れたりと、XR系の仕事に携わってきました。」
本城「単発のものだけではなく、ビジネスにも活用できるような仮想空間を作ることによって、幅広くバーチャルイベントなどに使ってもらえるのではないかと考えました。そこで、2018年頃から『XR CLOUD』というバーチャル空間プラットフォームの制作に取り掛かりました。」
本城「そちらで会社自体も資金調達を行い、このプラットフォームが完成したタイミングで新型コロナウイルスが流行しました。」
本城「コロナの影響により、社会全体でリアルイベントが中止になる中、この『XR CLOUD』の発表には非常に大きな反響がありました。そして、大手の企業様との取引も一挙に増えました。」
本城「それを機にゲーム会社からメタバース企業へとシフトチェンジをしまして、昨年東証グロース市場に上場させていただいいた、という形になっております。」
monoAIのメタバース事業
――貴社のメタバース事業は大きく2つのサービスに分かれるとお聞きしました。
――それぞれの事業内容を教えていただけますでしょうか?
メタバースサービス
本城「2つのサービスのうち1つが、メタバースサービスというものです。自社のメタバースプラットフォーム『XR CLOUD』をカスタマイズし、お客様向けのメタバースを作っていくというサービスです。」
本城「メタバースは多様な用途がありますが、1つの汎用プラットフォームであらゆる用途にそれぞれ対応するというのは、とても難しいと感じています。」
本城「例としまして、学校のメタバースだと、ユーザーに出席して欲しい、手を挙げて欲しい、そして時間になったら特定の子と遊べるようなシステムを用意したいなどの要望があります。」
本城「逆にライブのメタバースだと、アバターを売りたい、有料チケットを販売したい、ライブの時は派手な演出にしたいなど、全く異なる要望になります。」
本城「それぞれ違う要望に1つのプラットフォームで対応すると、UIがわかりづらくなってしまうという問題が出てきます。そこで、目的特化型のメタバースを 作ってい こうと考えました。」
本城「ただ、毎回ゼロからメタバースを作ると、基礎部分を作るだけでも大きくコストが掛かってしまうた め、基礎的な部分は無償で提供します。学校のメタバースであれば出席簿機能を付けて いくという ように、必要に応じて機能を充てていきます。」
本城「そうすることで、UIが整理された専門のメタバースを素早く提供できる、というのがメタバースサービスです。」
――お客様の要望をもとに、基礎部分を土台にしてメタバースを柔軟に作られていく、という印象です。
イベントサービス
本城「2つめはイベントサービスというものです。社員総会や会社説明会など、メタバースを独自で作るほどではなくショットで活用したい、と考えているお客様向けのサービスです。」
本城「XR CLOUDをレンタルして、イベンターとしてワールドを作成、そのイベントそのものを経営してご提供するという、イベンター兼プラットフォーム提供事業です。」
本城「医療業界のカンファレンスや、採用イベント、テレビ番組の企画など、色々な使い方をしていただいているサービスです。」
――メタバース化によってイベント開催のコストを抑えられ、遠方の参加者にとっても利点の多いサービスだと感じました。
子会社で周辺サービスを提供
本城「以上の2つのサービスに加え、周辺サービスも提供しています。子会社である『モノビットエンジン』では、通信ライブラリなどを単体でゲーム会社さんや、メタバースの会社さんに提供させていただいています。」
本城「『モリカトロン』というAIの会社もありまして、こちらはAIソリューションの作成やゲーム会社への提供などを行っています。」
本城「最近、『ロボアプリケーションズ』という会社も子会社となりまして、こちらはロボット向けのスマートフォンアプリの開発事業を展開しています。」
――周辺サービスを含め一気通貫に近い形で事業を展開されていらっしゃるのですね。
XR CLOUDでメタバースのハードルを低く
――メタバースの動作環境としてはどこまで対応しているのでしょうか?
本城「スマートフォンのアプリや、WindowsやMacでも直接起動ができることに加え、ブラウザにも対応しています。」
本城「ブラウザの場合はWebGLというブラウザレンダリングに加え、クラウドレンダリングというサーバー上でレンダリングするものも使用できます。」
本城「リッチなグラフィック表現をするとパソコンの動作が重くなってしまいますが、クラウドレンダリングはソフトのインストールを必要としない上、パソコンのスペックが低くても動画サイトの再生と同程度の負荷でリッチなグラフィック表現の実現が可能です。」
――必要とするハードウェアのハードルを大きく下げている印象を受けました。『メタバースは重い』というイメージを払拭できると感じました。
本城「動作環境以外の特徴として、1つの会場に1000人まで同時接続することができます。他のプラットフォームだと50人程容量が上限に達してしまうため、それ以上の規模のイベントを行う際は50人ごとに会場を用意する必要があります。」
本城「我々のプラットフォームの場合は元々MMORPGなどで使ってきた独自のサーバー技術を採用しているので、1000人同時に入っても問題ない仕様となっています。来場者全員が1つの空間で会話できるというのは大きなポイントです。」
――ゲーム開発で培われたノウハウをふんだんに活用されている、という印象を受けました。
サービスの利用メリット
――クライアント様のそのメタバースを導入することによるビフォーアフターの面はどのようなものになっていますでしょうか?
本城「長く続けて使っていただいている会社さんでは、自社のオフィスをメタバースの中に再現して新卒採用の説明会などをここでやっていただいてるお客様もいて、やはり会社としてこういった新しい取り組みをしてる、という会社自身のブランディングになったなど、学生さんからもより会社に興味を持てました、というお声をいただいたりしています。」
monoAIのサービス導入事例
――提供サービスの具体的な導入事例についてお聞きしていきます。
XR CLOUDのOEMサービス導入の利便性
本城「GIGAスクール構想(児童・生徒1人に1台の端末と高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み)の環境整備の一貫として、様々な理由で学校へ登校できない生徒もメタバース上で気軽に学校に通い、先生と交流できるようなメタバースも作らせていただいたりしています。」
――オンライン授業がもしメタバース空間でできたら、とても没入感が強い、という印象を受けました。
本城「現在、医療特化型のメタバースを作っています。ちょうど様々な新型VR・MRデバイスが発売されてきているので、リアルとバーチャルの共存を加速させるためにMRデバイスにも対応していきます。」
本城「同じ空間の中にリアル世界の人とバーチャル世界の人が同時に入って授業や会議に参加できる機能を追加しているところです。」
――サービスを提供する業種の範囲がかなり広がっていきそうですね。
――コロナ禍でオンライン上のサービスが世間一般に普及した背景もあり、今まで想定していなかった分野も視野に入れるようになりましたか?
本城「現時点ですと産業用メタバースや、スマートシティにおいてオンラインで確認した街の情報をもとに新しいサービスを作る取り組みなど、本当に色々な活用方法のお話をいただいております。」
本城「元々リアルタイムでリアルとバーチャルを繋ぐのが得意ですので、イベントに限定せず、メタバースの価値を広げるような新しいサービスの製作を積極的に進めているところです。」
――XR CLOUDのOEMサービス導入の利便性や、クライアントのメリットはどのような点にありますか?
本城「『かゆいところに手が届く』ようなメタバースを、ゼロからの制作でありながらも圧倒的に安価かつ迅速にご提供できるというところがメリットです。」
本城「メタバースを導入する際、自社のECサイトの在庫を確認できる機能が欲しい、自分達のID決済・認証サービスを入れたいといった要望に対応できる既存のプラットフォームやSaaSはほぼありません。しかし、我々はそこをカスタマイズして提供することができます。」
本城「セキュリティの厳しい業界向けに、認証データ管理の部分も個別にカスタマイズすることが可能です。」
NEOKET
本城「メタバースサービスでは、ピクシブさんの場合は『NEOKET(ネオケット)』というバーチャル空間上の同人誌即売会のメタバース開発を行いました。」
本城「ピクシブさんのアバタープラットフォーム『VRoidHub』と連動して、そこでアップロードしたVRM形式(3Dアバター用のファイルフォーマット)の3Dモデルデータを読み込んで自分のアバターとして使用することができます。ボイスチャットで会話することも可能です。」
本城「さらに、机に置いてある本をクリックすると立ち読み機能が起動します。そこで気に入った作品に対して購入ボタンを押すと、『BOOTH(pixivと連携した創作物のマーケットプレイス)』を通して購入・決済を行うことができます。」
本城「購入したことはすぐに通知されて、売り子さんに伝わるので『買っていただいてありがとうございます』といった会話がその場でできたりと、リアルタイムコミュニケーションも可能となっています。」
本城「また、購入した作品を手にして会場内で持ち歩けるような動作演出もあるため、購入作品をアピールすることでファン同士で交流したり、いわゆる”推し活”をすることができます。」
本城「非常に細かい世界観の演出が可能なので、通常のライブコマースとは一味違うサービスとなっています。」
デジタル甲子園
本城「『デジタル甲子園』という阪急阪神ホールディングスさんのオンラインイベントのプラットフォームも手がけました。これは、甲子園球場これは、メタバース化した甲子園球場内に50社程の企業が出展する展示会です。」
本城「阪急阪神のIDでログインが可能で、名刺交換や、ブース出展者の方が自分で資料をアップできるような機能がついていてます。」
本城「実際の展示会と同様に、歩いている人にボイスチャットで声をかけ、名刺交換をしてその場で商談したりすることができます。」
本城「さらにイベンター、講演に有名人を呼んでセミナーをするといったことも行いました。」
その他の導入事例
本城「ほかにイベントサービスの事例では、模擬裁判があります。これは、実際に裁判官や被告として裁判が体験できるというものです。」
本城「あとはメディカルバースという医療業界特化型のものは、有名な大手製薬会社さんや大学などでお使いいただいています。」
今後のmonoAIの挑戦
――幅広くメタバース事業に挑戦されていらっしゃるとのことですが、今後想定している事業展開について教えていただけますか?
XRによるDX
本城「現実世界と仮想世界を同時に扱うようなデバイスが普及してくれていますので、そちらを企業に導入していただいて業務効率を改善するなどといった『XRによるDX』を手がけていきたいと考えています。」
本城「メタバース空間の中だと、UI/UXの面でも非常に臨場感を持ってわかりやすくDXを推進できると考えています。」
――メタバース以外の分野などへの事業展開は考えていますでしょうか?
本城「基本的にはXRジャンルに特化していくスタイルをとっていますが、それ以外の分野に関してあえて言うなら、AI技術は積極的に取り入れていこうと考えています。」
本城「例えばXRとAIの融合だと、今まで展示会などでバーチャルヒューマンを置いていましたが、これにはGPT-4が搭載されていまして、質問したことに対して賢くしっかりとしたレスポンスを返してくれます。」
本城「AR技術により、スマートフォンをかざすと目の前に本当に人が立っているかのように見せるといった、リアルとバーチャルの融合は可能です。さらにそこにGPT-4を搭載することで、リアルとバーチャルの異なる空間を通してのコミュニケーションも可能になります。」
地方創生や福祉貢献にメタバースを活用
――メタバース事業によって実現したいことを教えていただいても宜しいでしょうか?
本城「私の原点であるMMORPGの仮想空間の中では、世界中の人と一緒に冒険したり、仲間になったり、そこで結婚する人も見てきました。」
本城「そういった経験を通して、必ず現実と同じぐらいの価値をバーチャル空間にも持ち出すことができるだろうという確信が昔からありました。それが実現した世界を見てみたいという思いが一番強いです。」
本城「バーチャル空間では地方に住んでいる人が様々なイベントに自由に参加できるだけでなく、病気などで外出が難しい人にとっても他者と交流できたりするという利点があります。」
本城「そういった面で、メタバースは地方創生や社会福祉的にも非常に価値が高いのではないのかと考えています。私たちはそのような世界の実現を推進していきます。」
――メタバースは、社会全体で見た時にどのように発展していくと考えますか?
本城「将来的に社会インフラになっていくのではないかと感じています。例えばスマートフォンそのものがARグラスになっていき、全てのアプリケーションがメタバース化、ないしはXR上で操作できるようになると思います。」
本城「今やスマートフォンのない生活は想像できませんが、将来はそれと同じようにXRのメタバースが社会に浸透し、皆さんの生活が激変するのではないかと思っています。」
――デバイス、特にスマートフォンは急激に進化していますので、実現する日は近いのではないかと思います。
――本日はありがとうございました。
monoAI technology
monoAI technologyは、「先進技術で、エンタメと社会の未来を創造する。」をミッションとし、
通信ミドルウェア事業やXRソリューション基盤の開発、AIを用いたソフトウエア品質保証サービスの開発等で培った
最先端技術を生かして、数万人規模で同時接続のできるメタバースプラットフォーム『XR CLOUD』を開発・運営しています。
1978年神戸生まれ。ゲーマーだった19歳の時、世界初の本格MMORPG「ウルティマオンライン」に出会って強い衝撃を受け、将来ネットワークゲームを作ることを決意。
サーバエンジニア、大手コンシューマゲーム開発会社を経て、2005年にmonoAIを創業。ゲームの開発を行いつつ、まだ日本でネットワークゲームを作る文化がなかった頃からネットワークゲーム開発の研究開発に着手。
その成果を元に、2013年からモノビットリアルタイム通信エンジンの販売を開始。2018年に本社を東京から地元神戸に移転。2020年に大規模仮想空間基盤『XR CLOUD』をリリース。
2022年にメタバース企業として、日本初の東証グロース市場への上場を果たす。