NVIDIAのGPUがAI市場を席巻した理由とは?
AIの進化は、私たちの生活やビジネスに劇的な変化をもたらしています。
その中で、NVIDIAのGPUは、AI市場において欠かせない存在となっています。
本記事では、NVIDIAのGPUがAI市場を席巻するに至った理由を解説します。
NVIDIAの急成長と市場での位置づけ
2024年6月、NVIDIAは時価総額で世界首位の企業になりました。
時価総額は一時、3兆ドル(現在のレートで約468兆円)に達し、MicrosoftやAppleを抜いて「世界で最も価値のある企業」となったことで、金融市場に衝撃を与えました。
約11年ぶりに「GAFAM」(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)以外の企業が時価総額世界首位となりました。
NVIDIAが2024年5月に発表した決算では、今期の売上高は260億4400万ドルで、前年同期から、262%増加しました。
また、純利益は148億8100万ドルで、前年同期から628%増加しました。
さらに、2024年会計年度第4四半期の粗利益率は76%に達しました。
粗利益率とは、企業の売上高に対する粗利益の割合を示す財務指標です。
粗利益は、売上高から売上原価を差し引いたもので、製品やサービスの製造・提供に直接かかるコスト(原材料費、労務費など)を除いた利益のことです。
粗利益率が高いほど、付加価値の高いビジネスを行っていることを示します。
高収益で知られるメーカー、Appleの直近2四半期の粗利益率は約40%前後であるため、NVIDIAの粗利益率は驚異的と言えます。
NVIDIAの会社概要
NVIDIAの正式名称は「NVIDIA Corporation」であり、1993年に現CEOのジェンスン・フアンらによって設立された、アメリカのカリフォルニア州にある半導体メーカーです。
特にGPU(グラフィックスプロセッシングユニット)の設計に特化している点が特徴です。
製造はTSMCなどの外部の半導体製造メーカーに委託するファブレス経営であることも特徴です。
2010年代の前半まで、NVIDIAはPCやゲームに精通した人が聞いたことのある、数あるゲーム用半導体メーカーの一社でした。
しかし、現在はデータセンター向け事業が、NVIDIAの収益の8割以上を占めており、同社の中核事業となっています。
データセンターとは、サーバーやネットワーク機器を設置し、運用するための施設のことです。
データセンター向け事業の主な顧客は、GoogleやMeta、Microsoftなどの大手テック企業です。
彼らは、NVIDIAのGPUを活用して、AIのトレーニングや推論などの研究を行っています。
例えば、ディープラーニングと高性能計算(HPC)向けに設計された統合ハードウェアおよびソフトウェアであるDGXプラットフォームをGoogleやTeslaに提供しています。
また、生成AIブームの火付け役であるChatGPTは、数千〜数万のNVIDIA製GPUによって動いています。
NVIDIAは、データセンター向けGPU市場で圧倒的なシェアを持っており、2024年には90%以上の市場シェアを獲得し、ほぼ独占状態にあります。
そのため、「NVIDIAなしでは生成AIは成り立たない」とさえ言われており、AI分野で圧倒的な地位と存在感を放っています。
NVIDIAのGPUは、PCゲーマー向けの市場で8割のシェアを占めており、自動運転や、科学研究の分野でも広く採用されています。
NVIDIAのGPUの種類
NVIDIAのGPUは、さまざまな用途やユーザーのニーズに応じた多様なラインアップを展開しています。
以下に主要なGPUの種類とその特徴を紹介します。
GeForceシリーズ
NVIDIAのGeForceシリーズは、主にゲーマー向けに設計されたGPUです。
GeForceは、高フレームレートや、高解像度のグラフィックスレンダリング、光の物理的な動きをシミュレートする技術であるリアルタイムレイトレーシングに対応しています。
これにより、ゲーマーは最新のゲームを高品質で楽しむことができます。
現行の最上位モデルであり、8Kゲーミングに対応したGeForce RTX 3090や、コストパフォーマンスに優れた廉価モデルのGeForce RTX 3060などがあります。
Quadroシリーズ
Quadroシリーズは、NVIDIA社が提供する業務用およびプロフェッショナル向けの高性能GPUです。
このシリーズは、CAD(コンピュータ支援設計)、CG(コンピュータグラフィックス)、ビデオ編集、3Dレンダリングなどのプロフェッショナルな用途に特化しています。
高精度の医療イメージング、複雑なシミュレーションなどに用いられるNVIDIA RTX A6000や、3Dアニメーション、デザインに用いられるQuadro RTX 6000などがあります。
Teslaシリーズ
NVIDIAのTeslaシリーズは、データセンターや高性能計算(HPC)向けに特化したGPUです。
このシリーズは、特に機械学習、ディープラーニング、シミュレーション、大規模な計算、そして高品質な画像生成などの用途に使用されます。
GeForceやQuadroとは異なり、Teslaシリーズはディスプレイ出力機能を持たず、完全に演算用途に特化しています。
最初のTesla製品で、科学技術計算向けに設計されたTesla C870から始まり、OpenAIのChatGPT-3の開発に利用されたNVIDIA A100などがあります。
Tegraシリーズ
NVIDIA Tegraは、モバイルデバイス、組み込みシステム、車載システムなどに使用される高性能なシステムオンチップ(SoC)です。
Tegra SoCは、CPU、GPU、メモリコントローラー、I/Oコントローラーなどの主要なコンポーネントを1つのチップに統合しており、高いパフォーマンスと省電力性能を持つことが特徴的な製品です。
多くのスマートフォンやタブレット端末に採用されたTegra 2や、Nintendo Switchに採用されているTegra X1があります。
NVIDIAのGPUがAI市場を席巻した理由
NVIDIAのGPUが、AIデータセンター向けの市場で圧倒的なシェアを占めていることについて紹介しました。
GPUの製造や設計を行っている会社は、IntelやAMDなど多数ありますが、なぜNVIDIAがGPU市場を席巻するに至ったのかを解説します。
GPUとCPUの違い
まず、CPUではなく、GPUがなぜAIのトレーニングに使用されているのかを解説します。
CPUとGPUの違いについて以下の表にまとめました。
CPU | GPU | |
役割 | コンピュータ全体の制御と処理 | 画像処理と並列計算 |
コア数 | 4~16個の高性能コア | 数百~数千個のシンプルなコア |
構造 | 複雑な命令セットを処理するための設計 | 大量のデータを並列に処理するための設計 |
適用範囲 | 順列処理が得意 | 並列処理が得意 |
シングルスレッド性能 | 高い | 低い |
並列計算能力 | 低い |
|
主な用途 | オペレーティングシステムの管理、ウェブブラウジング、オフィスアプリケーションの実行 | ゲームグラフィックスのレンダリング、AIモデルのトレーニングと推論、大規模データの解析など |
CPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)は、コンピュータ全体の制御を担当し、OS (オペレーティングシステム)やアプリケーションを実行します。
GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)は、負荷の高いグラフィック処理を担当するパーツであり、主にコンピュータのグラフィックス処理を専門に行うプロセッサです。
GPUは多数のコア(数千単位のコア)を持ち、大量のデータを同時に処理する能力があります。
そのためGPUは、CPUの数倍から100倍以上の計算速度を実現できます。
AIのトレーニングでは、大規模な行列演算が頻繁に使用されるため、データを同時に処理することのできるGPUが適しているのです。
NVIDIAの歴史
NVIDIAは、設立当初からグラフィックス処理に特化したGPU開発をしており、、現在ではAI、データセンター、自運運転技術など、多岐にわたる分野で革新を続ける企業となっています。
1990年代の設立当初、PCの計算処理装置としてはIntelやAMDのCPU(中央処理装置)のみが注目を集めていました。
しかし、NVIDIAはグラフィックスチップをGPU(Graphics Processing Unit)と命名し、CPUに並ぶ演算装置としての地位を確立します。
1999年に発表されたGeForce 256は、世界初のGPUとして広く認知され、NVIDIAの名を一躍有名にしました。
2007年には、データセンターや高性能計算向けのTeslaシリーズを発表しました。
これにより、NVIDIAはAIおよびデータセンター市場に進出します。
その後、e-Sportsの流行や、暗号通貨ブームによるマイニング需要などもあり、着実に業績を伸ばしたNVIDIAは、、現在ではAIチップ市場の約80%から90%を占めています。
そして、2024年6月にはマイクロソフトを抜いて時価総額世界首位となりました。
AIへの関心と先見性
NVIDIAは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、グラフィックス市場で大きな成功を収めましたが、その過程でいくつかの困難な時期も経験しました。
その代表的な出来事が、チップセット事業の撤退です。
NVIDIAは2001年に、「nForce」ブランドでチップセット市場に参入しました。
チップセットとは、パソコンの心臓部であるCPUと、メモリやグラフィックボードなどの周辺機器をつなぎ、それらのデータのやり取りを円滑に行うためのパーツです。
当初はAMD向けのチップセットを中心に展開していましたが、AMDが、GPUメーカーのATIを買収したことにより、AMDのプラットフォームからNVIDIAは締め出されました。
intelも同様に自社での開発を進めたため、NVIDIAは2010年に、チップセット市場から撤退を余儀なくされました。
危機的状況の中、同社は戦略を転換し、主にGPUおよびAI(人工知能)技術に注力します。
この先見性と、リソースの選択と集中がNVIDIAの現在の大きな成功につながっています。
NVIDIAが、チップセット事業から撤退した丁度2010年代頃から、第三次AIブームが起こりました。
画像認識の精度を競い合う大会(ILSVRC)で、ディープラーニングモデルであるAlexNetが、他の手法を大きく上回るパフォーマンスを示して、優勝したことが第三次AIブームの発端です。
優勝したマシンの構成には、NVIDIA製のGPUが使用され、ディープラーニング(深層学習)に、GPUが適していることが明らかになりました。
この2012年の出来事を「マシンラーニング型AIの世界にビッグバンが起きた」とジェンスン・フアンCEOは語っています。
ディープラーニングには、ビッグデータとそれを処理する高性能な演算機器が必要です。
この処理にGPUが向いていると発覚した際、ジェンスン・ファンCEOは以下のようにも語っています。
このディープラーニングという手法は、単に新しいアルゴリズムではない。
ソフトウエアの開発を革命的に変え得るものであると。
全く新しいコンピューターへのアプローチなのだと。過去50年間で全く解決できなかった多くの問題を解決できるものだと。
興奮しましたよ。この事実に気付いた時は。
そこから、全社でディープラーニングを追求する方向に動いたわけです。
エンジニアたちに「全員がディープラーニングを学んでくれ」と伝えました。
すぐに大勢のエンジニアが私の声掛けに賛同してくれました。
最初は数十人でチームをつくりましたが、半年後には数百人になりました。
そして1年後には、数千人のチームになりました。
そして発見から5年ほどたった今(2017年当時)、エヌビディアは全員がAI関連の仕事をしています。
NVIDIAは、競合のインテル社やAMD社に先駆け、AI向けディープラーニング向けのGPUや、GPUを汎用計算に利用するためのプラットフォームやソフトウェアを開発し、AI分野に注力しました。
この先見性が、NVIDIAのGPUがAI市場を席巻できた理由の一つです。
加えて、経営資源のリソースをAI関連の事業にオールインした、選択と集中もNVIDIAがAI市場を席巻した大きな要因です。
全リソースをAI関連ビジネスに振り向けたことについて、ジェンスン・ファンCEOは以下のように述べています。
企業として投資できる総額には限界がありますから、AIへの投資を増やせば既存事業が手薄になる。
また、別の新規事業としてフォーカスしていたものを緩める必要も出てきます。
他のチャンスは諦めたということです。
例えば、我々はスマートフォン向けのビジネスをもっと追求できた。
あるいは、ゲーム機とタブレットを自社で開発するチャンスもあった。
でも、それらからは一歩引きました。
多くのビジネスチャンスを失いました。けれど、その犠牲によってAIにフォーカスできた。
業績も犠牲にしました。
短期的なチャンスを失いましたからね。ただ、業績で苦労するのはせいぜい数年だと予測していました。
それに対し、AIがもたらす恩恵はすさまじい。一生に一度のチャンスですよ。絶対にフォーカスしなければならないと思いました。
ディープラーニング技術の革新と普及に対する深いコミットメントと情熱が、NVIDIAの大きな成長要因となっています。
CUDAについて
NVIDIAの成功は、先見性やリソースの選択と集中の他にも、AIを開発するシステムに注力したことがとても大きな要因となっています。
「CUDA(クーダ)」と呼ばれる開発プラットフォームについて、下記の記事でわかりやすく説明されています。
CUDA」を理解するためのポイントは二つあります。
第一に、CUDAを使った開発は、NVIDIA製のGPU専用であるという点です。
CUDAはそのコードが公開されておらず、CUDAを使ってNVIDIA以外のGPU向けに開発をしようと思っても、物理的にできない状況にあります。
つまり、CUDAを使って開発するなら、NVIDIAのGPUを使わなければなりません。NIVIAのGPUが無いなら、新しく買わなくてはなりません。
CUDAはNIVIAが提供している開発環境なので、ある種当たり前と言えば当たり前、当然と言えば当然なのですが…
第二に、AI開発者・研究者の中ではCUDAを使った開発が事実上のスタンダードになっているという点です。
つまり、AI研究や開発にはCUDAを使用することが業界のデファクトスタンダードとなっており、そのCUDAを使うためのGPUはNVIDIA製に限定されるということです。
GPU向け開発環境のCUDAによるエコシステムの構築も、NVIDIA製GPUがAI市場を席巻した大きな理由の一つです。
まとめ|NVIDIAの先見性と経営戦略
NVIDIAのGPUがAI市場を席巻した理由は、技術力の高さだけでなく、その先見性と戦略的な意思決定が大きく影響しています。
ディープラーニングの可能性を早期に見抜き、GPUの可能性を見出し、ゲーム市場から、現在のAI革命に至るまで常に市場の変化を先取りしてきました。
AIの研究者や開発者に、ソフトウェアやプラットフォームを通じて強力なツールを提供した結果、AIの飛躍的な進歩を支える基盤となっています。
また、下記の記事では「風が吹けば桶屋が儲かる。AIが流行ればNVIDIAが儲かる。」と表現しているように、AIの研究や開発が盛んになればなるほど、NVIDIAの収益が上がる構造になっているのです。
今後の展望として、国家が自国のインフラ、データ、労働力、ビジネスネットワークを活用してAIを開発・運用するソブリンAI(国家独自のAI)の実現に向けた取り組みが進められており、NVIDIAの新たな市場として注目されています。
NVIDIAの先見性と柔軟な経営戦略が、AI技術のさらなる発展と新たな市場の創出に大きく貢献することが期待されます。
出典:https://www.nvidia.com/ja-jp/