国内におけるBCGは衰退したのか?そもそも幻影だったのか? TOKYOBEASTサービス終了に伴うWEB3界隈、トークン発行とNFTの不機嫌な関係 第1部:TOKYOBEASTの栄光と挫折 - 76日間の教訓

76日で終了した「TOKYOBEAST」は、国内ブロックチェーンゲーム(BCG)の構造的問題を浮き彫りにした。本シリーズでは、Web3ゲームの課題、NFT・トークン経済の限界、そして「PicTrée」が示す新潮流を分析。BCGは本当に終わったのか?国内Web3市場の未来を読み解く全5部。
はじめに
2025年7月、日本のブロックチェーンゲーム(BCG)業界に激震が走った。わずか76日間でサービス終了を迎えるTOKYOBEASTの事例は、国内BCG業界が抱える根深い問題を浮き彫りにした。初日に30万ダウンロードを記録し、業界関係者の期待を一身に背負ったタイトルの早期撤退は、単なる一事例に留まらず、日本のWEB3エンターテインメント市場全体への警鐘として響いている。
本稿では、TOKYOBEASTの失敗を出発点として、国内BCG業界の現状と課題、そして2025年後半に向けた業界の展望を多角的に分析する。特に注目すべきは、従来のBCGとは一線を画すピクトレ(PicTrée)の成功事例が示す新たな可能性と、それが業界に与える示唆である。果たして国内BCGは本当に衰退しているのか、それとも単なる成長痛に過ぎないのか。業界関係者が直視すべき現実と、今後のビジネス戦略について詳細に検討していく。
第1部:TOKYOBEASTの栄光と挫折 - 76日間の教訓
期待に満ちたスタート
TOKYO BEASTは、日本発のクリプトエンターテインメントIPプロジェクトとして2025年6月9日にローンチされた。開発元のTOKYO BEAST FZCOは「ブロックチェーン技術に特化したゲームパブリッシング会社」として設立され、JRPGの要素を取り入れた革新的なゲーム体験を謳っていた。
最も印象的だったのは、そのスタートダッシュの勢いである。初日で30万ダウンロードを記録し、業界関係者の間では「ついに日本発の本格的なBCGが登場した」との期待が高まった。ゲームは戦略性とハイステークスな要素を組み合わせ、プレイヤーがNFTやTGTトークンといったデジタル資産から収益を得られる仕組みを構築していた。
Immutable Playプラットフォームでの展開により、技術的な基盤も盤石に見えた。ホワイトペーパーでは「新しいエンターテインメント体験の創造」という壮大なビジョンが掲げられ、暗号資産との統合によって従来のゲームの枠を超えた価値提供を目指していた。
急転直下の終焉
しかし、華々しいスタートから僅か76日後の8月24日、TOKYO BEASTは突如としてサービス終了すると発表した。この電撃的な決定は、業界に大きな衝撃を与えた。30万ダウンロードという数字は決して少なくなく、一般的なモバイルゲームの基準で考えれば十分に成功の範疇に入る数値だった。
問題は、ダウンロード数と実際の継続率、そして何より収益性とのギャップにあった。BCGの宿命ともいえる「Play to Earn」の経済モデルが、持続可能な形で機能しなかったのである。初期の熱狂的なユーザー獲得の後、ゲーム内経済の不安定性が露呈し、プレイヤーの離脱が加速したと推測される。
特に深刻だったのは、TGTトークンの価格変動がゲーム体験に直結する構造であった。仮想通貨市場の変動に左右される収益モデルは、安定したゲーム運営を困難にし、結果として持続可能なビジネスモデルの構築に失敗した。
失敗の本質的要因
TOKYO BEASTの失敗は、単純な技術的問題や運営上のミスに起因するものではない。むしろ、現在のBCG業界が抱える構造的な問題を凝縮したケースとして捉えるべきである。
第一に、「Play to Earn」モデルの持続可能性の問題がある。プレイヤーがゲームから収益を得るという仕組みは魅力的に聞こえるが、その原資はどこから来るのかという根本的な疑問に対する明確な答えを持っていなかった。新規プレイヤーの流入が停滞すれば、既存プレイヤーへの報酬原資が枯渇するのは必然である。
第二に、ゲーム性と収益性のバランスの難しさが挙げられる。純粋にゲームとして楽しめるコンテンツを提供しながら、同時に経済的インセンティブも維持するという二重の課題は、想像以上に複雑だった。結果として、どちらも中途半端になってしまうリスクが顕在化した。
第三に、規制環境の不透明性も大きな要因となった。日本国内でのBCGの法的位置づけが曖昧な中で、安定した事業運営を行うことの困難さが浮き彫りになった。特に、トークンの取り扱いやNFTの法的性質について、明確なガイドラインが存在しない状況では、事業継続への不安が常につきまとう。