国内におけるBCGは衰退したのか?そもそも幻影だったのか? TOKYOBEASTサービス終了に伴うWEB3界隈、トークン発行とNFTの不機嫌な関係 第3部:WEB3とNFTの複雑な関係 - 技術と投機の狭間で

76日で終了した「TOKYOBEAST」は、国内ブロックチェーンゲーム(BCG)の構造的問題を浮き彫りにした。本シリーズでは、Web3ゲームの課題、NFT・トークン経済の限界、そして「PicTrée」が示す新潮流を分析。BCGは本当に終わったのか?国内Web3市場の未来を読み解く全5部。
はじめに
2025年7月、日本のブロックチェーンゲーム(BCG)業界に激震が走った。わずか76日間でサービス終了を迎えたTOKYOBEASTの事例は、国内BCG業界が抱える根深い問題を浮き彫りにした。初日に30万ダウンロードを記録し、業界関係者の期待を一身に背負ったタイトルの早期撤退は、単なる一事例に留まらず、日本のWEB3エンターテインメント市場全体への警鐘として響いている。
本稿では、TOKYOBEASTの失敗を出発点として、国内BCG業界の現状と課題、そして2025年後半に向けた業界の展望を多角的に分析する。特に注目すべきは、従来のBCGとは一線を画すピクトレ(PicTrée)の成功事例が示す新たな可能性と、それが業界に与える示唆である。果たして国内BCGは本当に衰退しているのか、それとも単なる成長痛に過ぎないのか。業界関係者が直視すべき現実と、今後のビジネス戦略について詳細に検討していく。
第3部:WEB3とNFTの複雑な関係 - 技術と投機の狭間で
NFTバブルの遺産
2021年から2022年にかけてのNFTブームは、BCG業界に大きな期待をもたらした。デジタルアート作品が数千万円で取引される様子は、多くの人々にNFTの可能性を印象づけた。しかし、このブームが去った後に残されたのは、過度な期待と現実のギャップであった。
NFTの本質的な価値は、デジタル所有権の証明と移転可能性にある。ゲームの文脈では、プレイヤーが獲得したアイテムやキャラクターを真に「所有」し、ゲームの枠を超えて取引することを可能にする技術として位置づけられていた。しかし、現実的には多くの技術的・法的・経済的な制約が存在し、理論上の可能性と実用性には大きな乖離があった。
特に問題となったのは、NFTの価格変動がゲーム体験に与える影響である。ゲームアイテムの価値が市場の投機的な動きに左右される状況では、純粋にゲームを楽しむことが困難になる。プレイヤーは常に「このアイテムを使うべきか、売るべきか」という投資判断を迫られ、ゲーム本来の楽しさが損なわれる結果となった。
トークンエコノミーの幻想
BCGプロジェクトの多くは、独自トークンの発行により持続可能な経済圏の構築を目指した。理論的には、プレイヤーの活動がトークンの価値向上につながり、それがさらなるプレイヤーの参加を促すという好循環を想定していた。
しかし、現実的にはこのトークンエコノミーが健全に機能した例は極めて少ない。最大の問題は、トークンの価値を支える実体的な経済活動が不足していることである。多くの場合、トークンの価値は投機的な取引によって決定され、ゲーム内での実用性とは乖離した価格形成が行われる。
TOKYO BEASTのTGTトークンも、この問題に直面したと考えられる。初期の期待によって価格が上昇したものの、継続的な需要を生み出すメカニズムが不足していたため、価格の下落とともにプレイヤーの離脱が加速したと推測される。
技術的な制約と現実
ブロックチェーン技術自体も、ゲームでの活用において多くの制約を抱えている。最も顕著なのは、トランザクション処理速度と手数料の問題である。一般的なゲームでは秒間数千回のアクションが発生するが、現在のブロックチェーン技術では、こうした高頻度な処理を低コストで実現することは困難である。
そのため、多くのBCGプロジェクトは、ゲームプレイの大部分を従来の中央集権的なサーバーで処理し、一部の要素のみをブロックチェーンで管理するハイブリッド構造を採用している。しかし、この構造は「真の分散化」というWEB3の理念とは矛盾するものであり、技術的な妥協の産物とも言える。
また、ユーザビリティの面でも大きな課題がある。ウォレットの管理、秘密鍵の保管、ガス代の支払いなど、一般的なゲームユーザーには馴染みのない概念が多数存在する。これらの複雑さが、マスマーケットへの普及を大きく阻害している。
投機と実用性のジレンマ
BCG業界が直面する根本的な矛盾は、投機的な魅力と実用的な価値の両立の困難さである。投機的な要素を強調すれば短期的な注目は集められるが、長期的な健全性が損なわれる。一方、実用性を重視すれば、投機的な資金の流入が期待できず、初期の成長が困難になる。
この矛盾は、WEB3業界全体の課題でもある。分散化、透明性、検閲耐性といったWEB3の本来の価値は、短期的な投機とは本質的に異なる長期的な社会的価値である。しかし、現実的には投機的な資金の流入なしには、こうした技術開発や事業展開が困難である。
TOKYO BEASTの失敗は、この矛盾を解決できなかった典型例として理解することができる。投機的な期待を背景とした初期の成功と、その後の現実的な課題への対処不足が、早期のサービス終了につながったと考えられる。