【第2部】外部プロフェッショナルPMという劇薬 - 事業を成功に導く「越境するリーダー」の活用法 -

なぜ日本企業からGAFAは生まれないのか?その本質に迫り、打開策としての外部PM活用を提言。経営の壁を打破したい経営者・人事担当者必読の2部構成。イノベーション不全の構造とその処方箋を、実例とともに深掘りします。【2部構成第2部】
第1部で指摘した日本企業の構造的欠陥。この根深く、複雑な問題を解決する最も効果的かつ即効性のある処方箋は何か。
それは、社外から「プロフェッショナルなプロジェクトマネージャー」を招聘し、事業の全権限を委譲することである。
これは単なる人材派遣や業務委託といった「外注」ではない。
組織の淀んだ空気を一変させ、事業を成功へと強制的にドライブさせるための、覚悟を持った「戦略的投資」だ。
なぜ「外部」のPMでなければならないのか
なぜ、社内の人材を登用するのではなく、あえて外部のPMを活用すべきなのか。
そこには、内部人材では決して持ち得ない、決定的な価値がある。
1. しがらみから解放された「客観性」と「中立性」
外部PMは、社内の人間関係や部署間の力学、過去の経緯といった一切のしがらみから自由だ。
彼らの評価は、所属する部署での評判ではなく、「担当した事業が成功したか、失敗したか」という一点にかかっている。
そのため、忖度や遠慮は一切不要。事業全体の成功という唯一の目的から見て、最も合理的で最適な判断を、誰に気兼ねすることなく下すことができる。
時にそれは、既存の事業部との対立を生むかもしれない。
しかし、その痛みを伴う意思決定こそが、プロジェクトを前進させる強力なエンジンとなる。
2. 修羅場を越えてきた「専門性」と「経験値」
プロフェッショナルPMは、複数の企業で数々の新規事業立ち上げやDXプロジェクトを成功、あるいは失敗させてきた経験を持つ。
成功体験だけでなく、失敗から得た生々しい教訓こそが彼らの最大の武器だ。
彼らは、プロジェクトが炎上する「匂い」を敏感に察知し、先回りしてリスクを潰すことができる。
社内のジェネラリストが数年かけて学ぶことを、彼らはすでに体得している。この経験値の差が、プロジェクトの成功確率を劇的に引き上げる。
3. 強制的に「マーケットイン」をインストールする
「プロダクトが先、マーケが後」という病に侵された組織に、外部PMは「顧客は誰か?」「その顧客は、なぜ我々のプロダクトに金を払うのか?」というシンプルかつ本質的な問いを、プロジェクトの初日から突きつける。
彼らは常に市場の最前線に身を置いているため、顧客のインサイトや最新のマーケティング手法を熟知している。
外部PMの存在は、プロダクトアウトの呪縛を強制的に解き放ち、組織に「マーケットイン」の発想をインストールする劇薬なのだ。
外部PMは「進行管理者」ではなく「ミニCEO」である
従来の日本企業におけるPM像は、予算・納期・品質(QCD)を管理する「進行管理者」のイメージが強い。
しかし、我々がここで提唱する外部プロフェッショナルPMは、その役割を遥かに超越した「ミニCEO(小規模な最高経営責任者)」と呼ぶべき存在だ。
彼らは、プロジェクトのP/L(損益計算書)に責任を持ち、事業計画の策定から資金調達、チームビルディング、プロダクト開発、マーケティング戦略、アライアンスまで、事業立ち上げに関わる全ての領域を統括する。
外部PMがチームに加わることで、停滞していた組織は劇的に変化する。
- 明確なビジョンとロードマップ:PMが事業のゴールとそこに至るまでの道筋を具体的に示すことで、曖昧だったプロジェクトの方向性が定まる。
- 役割の明確化と当事者意識の醸成:チームメンバー一人ひとりの役割と責任範囲が明確になり、「やらされ仕事」だったプロジェクトが「自分たちの事業」へと変わる。
- 意思決定の高速化:社内調整に費やされていた時間が、プロダクトの改善や顧客との対話といった本質的な活動に振り向けられ、プロジェクトは驚異的なスピードで進み始める。
そして何より重要なのは、外部PMがプロジェクトを成功に導くプロセスそのものが、社内にとって最高の「生きた研修」となることだ。
彼らが持ち込む手法、思考プロセス、リーダーシップを間近で体感することで、社内にも次世代のPM候補が育っていく。
これは、高額な研修プログラムでは決して得られない、実践的なノウハウの移植なのである。
結論として、不確実性が高く、変化のスピードが速い現代のビジネス環境において、新規事業という名の航海に乗り出すのであれば、その船の船長(PM)には、荒波を乗り越えてきた経験豊富なプロフェッショナルを据えるべきだ。
それは、コストではない。未来への最も確実な投資である。自社の未来に本気でコミットする覚悟があるならば、今すぐ「越境するリーダー」を探し始めるべきだろう。
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