これからの広告データ分析:その「問い」は、事業の未来を創るか?【第1部】

広告データ分析は“集める”から“問いを立てる”時代へ。マーケターとエンジニアが共に創る、目的ドリブンなデジタルマーケティングの新常識。データを事業成長へと導く実践知を3部構成で深掘りする必読連載です。【第1部】
第1部:データという名の「宝の持ち腐れ」- なぜ、あなたの会社のデータ活用は進まないのか? - (マーケター視点)
「データドリブンな意思決定を」。この言葉が経営の合言葉となって久しい。
多くの企業が最新のBIツールを導入し、GA4やCDPを駆使して膨大なデータを日々蓄積している。
しかし、その実態はどうだろうか。
きらびやかなダッシュボードが役員会議で映し出されるものの、そこから導き出されるアクションは驚くほど少ない。
レポート作成に忙殺され、「分析しているフリ」で一日が終わり、結局、次の施策は経験と勘、そして上司の声の大きさで決まる。
そんな光景が、あなたの会社でも繰り広げられてはいないだろうか。
この停滞の根源には、二つの深刻な病巣が存在する。
一つは、「KPIの洪水」問題だ。PV、UU、セッション数、滞在時間、直帰率、CTR、CPC、インプレッションシェア…。
デジタルマーケティングの世界は、無数の指標(KPI)で溢れかえっている。真面目なマーケターほど、これらすべてを追いかけようと努力する。
しかし、その結果待っているのは、「木を見て森を見ず」という最悪の結末だ。
日々の細かな指標の変動に一喜一憂するあまり、事業全体にとって本当に重要な「CVRの高いクリエイティブは何か?」「LTVを最大化する顧客セグメントはどこか?」といった、ビジネスの根幹を揺るがす問いを見失ってしまう。
「とりあえず取れるデータは全部取っておこう」という思想は、一見すると堅実に見える。だが、これは思考の放棄に他ならない。
ノイズの海から意味のある情報を見つけ出す分析コストは計り知れず、意思決定のスピードを致命的に鈍化させる。
データは多ければ良いというものではない。
それは、的確な問いを伴って初めて価値を持つ、極めて繊細な資源なのだ。
もう一つの病巣は、より根深い「手段の目的化」である。
最新ツールの導入そのものがゴールとなり、そのツールを「使いこなす」ことが仕事になってしまう。
ツールベンダーが推奨する複雑な設定を鵜呑みにし、誰もそのロジックを理解できない「ブラックボックス化したダッシュボード」が完成する。
そして、マーケターは自問する。「この数値が上がって、一体何が嬉しいのだろうか?」と。本来、ツールはビジネス課題を解決するための「手段」であるはずが、いつの間にかツールに「奉仕」する構造に陥っているのだ。
こうした状況下で、マーケターは孤独な戦いを強いられる。「データを見て考えろ」と上司は言うが、どのデータが重要なのか、その本質を誰も教えてはくれない。
意を決してエンジニアにデータ抽出を依頼しても、「今忙しい」「どんなデータが欲しいのか具体的に言ってくれ」と返され、コミュニケーションの壁に阻まれる。
出てきたデータは欲しい形式とは異なり、結局Excelで手作業の加工に膨大な時間を費やす。施策の成否をデータで客観的に証明できないため、次の予算獲得も難しくなる。
この負のスパイラルから抜け出せない限り、データ活用は永遠に「絵に描いた餅」のままだ。
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