海外で導入が進むクリエイターエコノミー! ゲーム業界のあり方が変わる?
近年、ゲーム業界の戦略は多様化しています。
その中でも、特にアメリカで導入が進んでいるのが、クリエイターエコノミーです。
一般のクリエイターが収益化できるクリエイターエコノミーは、企業にとっても大きなメリットがあります。
本記事では、クリエイターエコノミ―とは何か、ゲーム業界でどのように導入されているのか、そしてなぜ注目されているのかを解説します。
ゲームの世界で導入が進むクリエイターエコノミー
情報技術の発展により、ゲーム業界が採れる戦略は飛躍的に広がりました。以前はゲームソフトやハードを開発し、販売店で実物を売るといった方法が主流でしたが、今ではそれ以外にもたくさんの手段でプレイヤーに作品を届けられます。
モバイルでプレイできるソーシャルゲームの発展、ゲーム内課金やガチャ、サブスクリプションサービスの導入など、マネタイズの手法は多様化してきています。
変化し続けるゲーム業界の中で、各社はさまざまな方法でユーザーに体験を届けています。その中で、マネタイズ成功の潜在的な可能性が高いと見込まれているのは、どういった手法なのでしょうか?
現在海外で特に注目を集めているのが、「クリエイターエコノミー」という概念です。「クリエイターエコノミー」とは、個人がコンテンツ制作、配信、収益化を容易に行えるように、クリエイターとファンを支える「プラットフォームや企業」によって構成される経済圏です。
「クリエイターエコノミー」はゲーム以外の分野で、すでに大きな成功を収めています。例えば動画共有プラットフォームYouTubeは、動画投稿者が様々な形で収益を上げられる仕組みをいち早く導入しています。YouTubeで得た収益を生業にする人も生まれ、良質なコンテンツが産まれる動画プラットフォームとして、多くのクリエイターと共にYouTubeは成長してきました。
また最近でも、大きなプラットフォームで「クリエイターエコノミー」推進の動きがあります。
去年2023年7月、ソーシャルサービスのX(旧Twitter)が、クリエイター向けの広告収益分配プログラムを開始しました。一定以上の影響力を持つインフルエンサーやクリエイターに、広告から得られる収益の一部を分配する仕組みです。
このように、IT企業大手が「クリエイターエコノミー」を推進しており、この流れはゲーム業界にも来ています。
この記事では、「クリエイターエコノミー」とは何かを解説します。
クリエイターエコノミーとは何?
「クリエイターエコノミー」という言葉を誰が定義したかははっきりしていませんが、スタンフォード大学のポール・サフォ氏によると、こうした経済圏の始まりは1997年ごろだということです。アメリカの決済サイト、stripeに投稿された記事で解説されています。
当時はネット上にFlashアニメーションや漫画のプラットフォームが生まれ、個人のクリエイターが自分の作品をそれらのサイトに投稿していました。当時はまだオンライン上での収益化ができませんでしたが、作品を公開できる場としてのプラットフォームを作る試みは、この当時から行われています。
情報技術の発展やインターネット人口の増加によって、今ではクリエイターが収益を受け取る仕組みが整備され、創作物への注目も集まるようになりました。その結果、インターネット上のプラットフォームを利用して活動を行い、生業とする人も出てきました。
プラットフォームを提供している企業側は、プラットフォームを利用しているクリエイターの売り上げから一部を得ることで、コンテンツを直接制作しなくても収益を得ることができます。
「クリエイターエコノミー」は近年急速に発展しつつあります。米証券大手ゴールドマン・サックスの分析によると、「クリエイターエコノミー」の市場規模は、現在2,500億米ドルの規模に達しているとのことです。さらに、今後5年間で市場が成長することが見込まれ、2027年までに約二倍の4,800億米ドルにまで膨れ上がるという試算が出ています。
このように、大きな規模と成長性を誇る「クリエイターエコノミー」への注目度は大きく、各企業が導入を図っています。
ゲームにおけるクリエイターエコノミー導入の経緯は?
クリエイターエコノミー以前の流れ
成長が進む「クリエイターエコノミー」は、ゲーム業界でも注目され、導入が進んでいます。
アメリカのメディア「Future」によると、単に経済性の面以外でも、アメリカのゲーム業界には導入のための下地があるとのことです。なぜかというと、「クリエイターエコノミー」がブームになる以前から、アメリカのゲーム会社の一部は、プレイヤーがコンテンツを制作することを推進してきたからです。
1998年にValve社から発売された「Half-Life」は、プレイヤーがコンテンツを作ってきた歴史の代表的な一例です。「Half-Life」はWindowsやMacでプレイできるFPSで、ゲーム性だけではなくドラマ性や演出の魅力も高いことで評価されました。
作品の魅力はもちろん、たくさんのMODが制作されたことも本作の特徴です。MODはゲームの改造データで、第三者によって作られるゲーム改変ソフトです。MODは許可なく制作されることもありますが、Valve社はMODの制作をむしろ支援する方向で動きました。
結果として、「Half-Life」では品質に優れたMODが多く開発され、コミュニティが発展し、ロングセラーとなりました。プレイヤーに創作を委ねることで成功した例の一つと言えます。
このように、アメリカのゲーム業界には、「クリエイターエコノミー」が注目される前から、プレイヤーにゲーム内コンテンツを制作することを許可する流れがありました。導入のための下地が整っていたのです。
クリエイターエコノミー導入の具体例
そのような経緯もあり、ゲーム業界で「クリエイターエコノミー」を導入し成功した例がすでにいくつかあります。
その代表例が、アメリカ発の世界各国で注目を集める、特に若年層に人気が高い「Roblox」です。
「Roblox」はゲーム制作のためのゲームエンジンであり、制作されたゲームを遊べるプラットフォームでもあります。ゲーム制作の専門的な知識がなくてもゲームを制作することができ、販売も簡単に行うことができます。ゲーム制作への敷居が下げられており、これまでアイデアはあってもゲームを作れなかった人が、比較的容易にクリエイターとして活動できるようになりました。
「Roblox」は、「クリエイターエコノミー」を主軸にしたサービスだと言えます。ゲーム制作へのハードルを下げることで、多くの人が創作する側として参加できるようになりました。
また「Fortnite」などの人気ゲームを開発するEpic Games社も、クリエイターエコノミーを導入した一例です。Epic Games社は2018年から、「Fortnite」に「クリエイティブモード」を追加しています。
このモードは、プレイヤーがオリジナルの島を作ることができるモードです。島はプレイヤーの好きなように装飾でき、ミニゲームを設定することもできます。
Epic Games社はこのモードにおけるクリエイターエコノミーに注力しており、2023年3月には、「クリエイターエコノミー2.0」を発表しました。アメリカのメディア「The Verge」は、これを「ゲームのエコシステムに変革をもたらしうる」と評しました。
「クリエイターエコノミー2.0」では、「Fortnite」により得た純利益の40%がクリエイターに分配されます。「Fortnite」全体で得られる収益はかなりの規模なので、分配される収益も数億米ドルと大きな額になっています。
収益の大きさだけではなく、その分配方法にも特徴があります。「クリエイターエコノミー2.0」では、プレイヤーの没頭度によって配当額が変化する、「エンゲージメント配当」という仕組みが導入されています。
例えば、制作した島がより多くのプレイヤーを集められた場合、クリエイターはより多くの配当を得ることができます。また、プレイヤーが定着するかどうかも評価の対象になっています。言い換えれば、より多くの人に、より多くの時間プレイされる島を作ったクリエイターは、高い収益を得ることができるのです。
また、ゲームと近いメタバースの分野でも、「クリエイターエコノミー」の導入が進んでいます。先日は、ソーシャルVRプラットフォームの「VRChat」でも、クリエイターエコノミーが導入されました。そちらについては、以下の記事で解説しています。
このように、すでに「クリエイターエコノミー」を導入している企業は多く見られます。
なぜクリエイターエコノミーは注目されている?
「クリエイターエコノミー」が導入されている理由はいくつもありますが、この記事では主な理由を2つ紹介します。ゲーム制作や販売のハードルが下がったこと、また、企業がプレイヤーのエンゲージメントを増やせることが、「クリエイターエコノミー」の促進に大きく寄与しています。
stripeの記事(https://stripe.com/blog/creator-economy)より引用