ゼロから『エルシャダイ』の制作に関わった二人が再会! 『エルシャダイ』の10年とマルチクリエイター・竹安佐和記のこれからについて訊く!-第1回
あれから10年――。「そんな装備で大丈夫か?」「大丈夫だ、問題ない」など印象的なセリフ、独特の世界観、魅力的なキャラクターたちが話題を呼んだ『エルシャダイ』の立ち上げからスタジオの解散までを知る竹安佐和記氏が、今だから話せる『エルシャダイ』の真実。その後の10年間と、これから竹安氏が目指す未来について話を伺った。(聞き手:コンフィデンス 取締役 竹下和広)
第1回 - 『エルシャダイ』を作った時、この先10年逃れられない作品と思った(竹安)
竹下和広(以下 竹下):竹安さんとは『エルシャダイ』を始める少し前からのお付き合いなので正確には、10年以上のお付き合いですが、今日は改めて、その『エルシャダイ』10周年についての想いと、今から10年後について伺えればと思っています。
ただ、エルシャダイ・プロジェクトって表に出せる話以外の話が本当は面白いのですが、話せない事ばかりなのでギリギリ話せる事をメインにお聞き出来ればと思います。
10周年と言う事で過去に遡って思い返してみると、奇跡的な事含め、色々な事がありました。ただ、その中には既に昔、話していることも多いので、本日は発売後について主にお聞きしようと思います。色々あってやっと発売するとなった時、竹安さんはどんな心境でしたか?
竹安佐和記(以下、竹安):今だから言えますが、(『エルシャダイ』は)スタジオが閉鎖した後に出てるゲームだから、かなりおもちゃにされると思ってました。(苦笑)
でも、良くも悪くも、物凄く認知されたし、新しい事をやったという自負はありました。また、達成出来なかった事もあったので、後悔もあったりするのですが、自分の中ではこのコンテンツにはこの先10年は付き合うんだろうなと、その時は思っていました。
竹下:10年ですか?
竹安:そう。みんながワーッと盛り上がっている時も、「ああ、もう直ぐ終わるな」と思っていました。スタジオもなくなるし、皆解散するし、正直、ゲームも思っていた完璧な完成ではないところもあったので…。
ただ、世の中の注目度からしたら、これは逃げられないだろう、一生言われるだろうなと思いました。出た時は「ああ、ここから10年かぁ。どんな感じになるんだろう」という思いでした。
竹下:スタジオの閉鎖の時は、本当に大変で、それこそ未経験の事が次から次へと起こって、更に、ジャパンスタジオって当時はインド、アメリカ、イギリスから色んな指示など同時並行的にいくつもやらなければいけなかったので、正直、辞めていかれる方々に労いの言葉もかけられる余裕がありませんでした。
竹安さん達にも色々ご迷惑をおかけして申し訳なかったです。私はイグニッション号という船の舵を握ったまま沈んだ身ですが、逆にそれから色々なものを背負っていく事になると思っていましたよ。
竹安:そうですよね、竹下さんは閉鎖以降は別の事務所に移られましたよね。僕は最後までいないといけないので6月まで契約してくれと言われましたけど…。
竹下:はい、私の最後の大仕事は竹安さんの手元にエルシャダイを引き渡す事で、その交渉に必死でした。ですから、そこから10年続くかどうかなんて考えている余裕もなかったです。でも、あの時、あのまま何もしなかったら絶対に今の10年はなかったので、10年を迎えられて良かったです。竹安さんに委ねて本当に良かったです。その結果として10年に繋がったので、あの時の苦労は報われました。
竹安:紆余曲折、色々ありましたからね。運が良かったというのもありますが。
僕は10年続くんじゃなくて、「10年逃げられない」と思っていました。あれだけ話題になってしまったら、ずっと一生言われるんだろうなと。余程、次の何かがないとゲームクリエイターって、みんなそうじゃないですか。最初にバーンと話題になったことをずっと言われる運命とか。
本当は、僕が最初にバーンといったのは、これじゃないんですよ。イグニッションの前職まで遡るんですが、ただ、『エルシャダイ』では自分の過去歴を越えちゃうくらいの話題性を取ってしまいました。
わりと前職の時もフラッグシップ・タイトルもやってたんですが、僕がその当時、それをやってたというのは、今の人はもう誰も知らないと思いますし、そういう意味では過去から解脱出来たのは感謝しています。10年も経ったしゲーム開発自体『エルシャダイ』が初めてと思ってる人が大半だと思います。
竹下:そうですよね。
竹安:まあ、結果的に、そこは当たってましたけど…権利を取得して思ったのは、同じ事をする人ってゲーム業界にはそんなにいないので、ただただ、怪しがられました。
僕のイメージでは、「ああ、良いですね。面白いから一緒にやりましょう!」という人が出るのかなと思っていたのですが、みんな遠目で見ていた感じです。良いとか悪いとかではなくて、知らないモノになっちゃったから、どうなるんだろう?というのが、凄く強かったと思います。
竹下:当時のイグニッションという外資系会社のことは、皆さん分かってなかったと思います。ある意味で謎の会社だったと言うか、英国本社社長と私が中心になって始めた会社なので知る由はないんですよ。ただ、謎にしていた面もあって、英国本社社長と自分も前に出ず、黒子に徹したと言うのもあって、イグニッションは竹安さんが世界から出資を集めたと思ってた人が多かったのではなかったかと思います。
竹安:そうだったかも知れません。スタジオを立ち上げるのも竹下さんと二人で始めましたね。2人で一人ずつスタッフを集めました。途中木村Pが来るまで、僕はプロデューサーもやってたわけなんで、遠目から見たら何をしているのか分からない人間になってしまっていたと思います。
すると総じて皆が何と言うかといえば、「絵描きの人」ってまとめたがるんですよね。でも、僕は、絵が特別好きな訳ではないし、「絵描きの人」って言われるのは凄く抵抗感がありました。
株式会社crim
代表取締役 竹安佐和記
カプコン第4開発部にて『Devil May Cry』や『鉄騎』、クローバースタジオでは『大神』の開発に関わったのち、株式会社crimを設立。ディレクター兼キャラクターデザイナーとして『エルシャダイ』を制作。また、スタジオ解散後、『エルシャダイ』の著作権を取得。現在小説Elshaddaiセタ記の執筆、Steam版Elshaddaiの開発中。