ゼロから『エルシャダイ』の制作に関わった二人が再会! 『エルシャダイ』の10年とマルチクリエイター・竹安佐和記のこれからについて訊く!-第4回
<第4回目>「そんな装備で大丈夫か?」「大丈夫だ、問題ない」など印象的なセリフ、独特の世界観、魅力的なキャラクターたちが話題を呼んだ『エルシャダイ』の立ち上げからスタジオの解散までを知る竹安佐和記氏が、今だから話せる『エルシャダイ』の真実。その後の10年間と、これから竹安氏が目指す未来について話を伺った。(聞き手:コンフィデンス 取締役 竹下和広)
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第4回 - 今だから言える「『エルシャダイ』がなぜ生まれたのか?」
竹安佐和記(以下、竹安):それは、当時のイグニッション英国本社社長が求めている感性が僕と合ったという事が大きいですね。結局、何か作ろうと思った時に、僕にはそれをやり遂げるだけの経済力だったりとか、インフラを作る力がなかった。でも、彼自身はそれを提供してくれて、僕を選んでくれました。勿論、僕達の間に竹下さんがいてくれた事も大きかったと思います。
あくまで『エルシャダイ』って、僕の世界もあるんだけど、僕は受託でやる感性でずっとやって来たので、受託の中で自分の感性を最大限に評価して頂いたという感じです。
竹下和広(以下 竹下):竹安さんが社員にはならなかったのもそういう理由ですよね。私もどちらでも良かったけど、むしろ、社員じゃなかったから色々な事を兄弟の様に正直ベースで話せたと思います。
竹安:そういう意味で、本当に助けて頂いたと、今でも感謝しています。
最初に先方から提示したものの中に、主人公のキャラの配置だとか、敵はこういうやつだというのはざっと、もう出来ていました。それを僕は、どんどんアレンジしていったっていう感じですね。
竹下:あの資料は本当に短い文章でした。挿絵もないA4(サイズ)2~3枚位でしたね。
竹安:はい、僕の方で、どんどんイメージボードを描いていって…。正直、絵に関しては、イメージボードまでは自分でやりたいけど、それ以上は「上手い人が描いて!」といつも思っています。
竹下:あの時は本当に、何をどうしたらどうなるという確信があった訳でもなく、英国本社社長と私とは「オリジナルコンテンツを作らないといけない」というビジョンだけを共有していて、私が偶然、営業先で竹安さんの絵を見つけた当時のイグニッションにはPS3やX360等大型開発のゲームを開発するだけの資金がなかったので、英国本社社長が世界のVC(Venture Capital)向けにプレゼンに奔走していた事を思い出します。
一つ一つが見送りになる報告を受けつつ、最後の一社が駄目なら万事休すの寸前で、UTV Communications Ltdの出資が決まりました。それが無ければ、今、私と竹安さんはここにいないですね。(笑)
ただ、UTV社長の気持ちとしては、イギリス本社のプロジェクトが一番で、2番目がアメリカ子会社のフロリダ開発のプロジェクト、最後が、日本の『エルシャダイ』でした。
竹安さんには申し訳ないですが、エルシャダイはオマケだったのです。(苦笑)
竹安:当時から聞いていました。でも、僕は「イギリスとアメリカのプロジェクトは出ないよ」と、ずっと言ってたんです。理想が高すぎて。
竹下:ですね。皮肉な事にエルシャダイ以外は途中で開発中止になりましたし。
竹安:僕はずっと実現性がないと思っていました。要は、プレゼンは凄く良いけど、技術的裏付けが見えないというのを当時から言ってました。
竹下:エルシャダイ以外の2つのゲームについて少しだけ言うと、あるゲームは、当時PS3の時代、1080Pのリアルタイム・グラフィックでゲームを作るとか言う壮大なビジョンを掲げていて、関係者全員がびっくりしたんですよ。
竹安:1080Pで60フレームですよね。PS3でゲーム作った人なら、「え?」って聞き直しますよね。僕も「出来る訳ないじゃん」って言ってたんですよ。
竹下:ただ、竹安さんが言ってた様にプレゼンが上手かったんだと思います。私は欧米の案件には関わっていなかったので良く分かりませんが、翌年のE3(Electronic Entertainment Expo)でテクニカル・デモを出す事になったと聞いた時にはちょっとだけワクワクしました。
竹安:信用させた方も、信用させるくらいグラフィックが素晴らしかったんです。本当に、新しい『スターウォーズ』みたいな…。
竹下:映画クオリティーの解像度で、しかもそれがゲーム内でシームレスに動く!でしたね。
竹安:ただ、結局PC上だったら出来たんですね…。
竹下:フロリダのプロジェクトはゲーム性としてはゲームが理解出来ている関係者からは凄く受けが良かったです。これは「Starwars: The Force Unlished」の様なゲームでした。これが発売される前に出すという計画でしたが、ディレクターが7人も交代してしまうという末路を辿ってしまいました。
竹安:あれは本当に凄かったですね。
竹下:これもイギリスのプロジェクト同様、天才的なプログラマーがディレクションしていました。でも、この人が優秀過ぎてこの人の言う通りになる組織になって、全てが彼に集中してしまいました。
竹安:確か、22~23歳くらいですよね。天才でしたね。でも、その人を尊敬できるサブがいなかった。要は、その人に嫉妬したりとか、上から目線の周りしかいないから、色々大変になりそうだなと思ってました。
竹下:結局、彼は、イグニッションを去ったんですが、その後、大成功を収めています。
結局、優秀な才能は、例え人間関係が出来ていたとしても夢や想いを共有出来ない人達とは上手くいかないんだなとその時感じましたね。
竹安:やっぱり大規模開発って、別の能力が要るんですよね。どっちかというと、僕はそっちの方が得意だった様な気がします。まとめるとかたたむとか、最終的にじゃあどうしようと悩んだ時に、決めれる決断力であったりとか、そういうのは自分でも強いと思ってるから、先ほども言いましたが、絵描きとなった時に、本当は絵描きじゃないんだけどなと思ってたりと…。
竹下:ですね、アーティストなんだけど、ビジネスサイドの人間とも話せるアーティストかな?そういう印象を持っていました。
竹安:これは自慢じゃないんですが(笑)、僕は絵描きの友達が割といないんです。普通に嫌われる事も多いですしそもそも、絵描きとどう仲良くなる方法も分からないし。
竹下:私たちとアーティストの人って、当時、あまりビジネスの話が出来ない印象があったんです。口裏を合わせてはくれているけど、たぶん、ちゃんと理解してくれていない。
ただ、竹安さんは最初から出来ましたよ。
竹安:僕が仲が良い友達って、税理士とか、弁護士とか、銀行の人とか、不動産屋とか。(笑)そんな人しかいないですよ。
僕はお店でギャラリーを作っているのですが、お店にお祝いのお花とか来るじゃないですか、絵描きとかゲーム業界の人からは何もなくて、そういう業界の人ばっかり来るので、自分でも「何者だよ?」と思います。(笑)
株式会社crim
代表取締役 竹安佐和記
カプコン第4開発部にて『Devil May Cry』や『鉄騎』、クローバースタジオでは『大神』の開発に関わったのち、株式会社crimを設立。ディレクター兼キャラクターデザイナーとして『エルシャダイ』を制作。また、スタジオ解散後、『エルシャダイ』の著作権を取得。現在小説Elshaddaiセタ記の執筆、Steam版Elshaddaiの開発中。